コラム

しゃべり過ぎ民主党の対米政策

2009年08月27日(木)18時27分

 衆議院選挙の全立候補者を対象に毎日新聞が行なったアンケートを見て興味深かったのは、そこから見えてくる民主党という政党の姿だ。

 民主党は党内での意見の食い違いが大きく、総選挙で大勝したところで内部分裂によって政権運営に行き詰まるだろうとよく言われる。毎日新聞のアンケートからは、こうした見方とは違った民主党の顔が見えてくる。

 憲法改正問題をみてみよう。改憲そのものについては民主党候補者の過半数が意義を認める一方で、9条の改正に賛成するのは20%に過ぎない。集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈を見直すべきだと答えたのは、それより少し多い25%。自衛隊のアフガニスタン派遣に賛成したのは15%ほどだった。

 日本外交のあり方については過半数を大きく上回る62%がアジアに比重を移すべきだと答えたのに対し、日米同盟を最重視するべきだと考えたのは18%に過ぎなかった。ちなみに内政についてはさらに足並みがそろっている。

■足並みそろえて「暴走」の危険

 こうした党内事情がもたらす危険性とは、身動きが取れなくなることではなくその逆だ。足並みがそろうことにより、党の上層部はかえって無謀な路線を歩む可能性がある。

 これは日本外交にとって何を意味するのだろう? 民主党政権は、一部の米専門家が考えるよりも強気でアメリカに異を唱えるようになるかもしれない。

 たとえば普天間飛行場の名護市辺野古への移設案について、民主党は白紙撤回をあくまで求めていこうとする様子がみられる。毎日新聞のアンケートには、沖縄海兵隊のグアム移転と普天間移設を柱とする在日米軍の再編に関する設問は含まれていない。

 だが現行の再編案に反対という点では民主党内はかなり足並みがそろっているのではないかと私は思う。日米同盟を重視するタカ派も、再編をめぐる日米合意には懐疑的な見方をしているからだ。

 民主党の菅直人代表代行は沖縄で(外交政策に関する民主党のいちばん過激な発言はたいてい沖縄で行なわれる)24日、9月に新首相とオバマ米大統領が会談する「可能性が高い」と述べた。「新首相」とオバマが腹を割って話せる関係が必要だと菅は言う。

 率直な関係(『友愛』を築くということだろう)を求めるのはけっこうだが、果たしてそれだけでいいのだろうか? 私は事務レベルで沖縄関連の対日交渉に携わっている米当局者から話を聞く機会が多いが、鳩山の心からのお願いが米政府から大歓迎されるとはとても思えない。

 率直な話し合いをすべきでないと言うつもりはない。在日米軍の再編案にはさまざまな問題点が浮上してきている。

 たとえば10年度の米国防予算法案の修正案は深刻な問題だ。再編に関連する建設作業に外国人労働者を使ってはならず、建築労働者の給料はハワイ並みの水準に引き上げなければならないという内容で、もしこの修正案が通れば100億ドルとされる海兵隊のグアムへの移転費用は倍増するかもしれない。

■オバマなら説得できるとでも?

 落としどころは別にあるのではないか。週刊東洋経済のピーター・エニス記者は、全米アジア研究所のウェブサイトの日米問題会議室に書いている。普天間にある海兵隊のヘリコプターを嘉手納の空軍基地に移せばいいと。

 民主党はこれまで普天間飛行場の県外移設を主張してきたが、嘉手納への統合案で妥協する可能性もあると私は思う。だがこれには民主党執行部の強いリーダーシップが必要だ。

 菅が沖縄滞在中に言及した日米問題は他にもある。菅はアメリカとの密約、特に日本政府との事前協議なしに米軍が核兵器を持ち込むことを認めた日米間の秘密合意をめぐって外務省を批判。鳩山はこの問題でも、解決に必要なのはオバマとの率直な対話だとの姿勢だ。まるで、オバマを説得すればアメリカの政策を非核三原則に合わせて変えてもらえると思い込んでいるかのようだ。

 その一方で鳩山は、アメリカの核の傘は「やむをえない」と発言している。7月には、現状に合わせて非核三原則を見直す用意があることを示唆した。この立場は評価できると私は思った。

 ともあれ民主党の幹部たちはしゃべりすぎだ。こうした問題でどのようにアメリカにアプローチすべきかなんて、選挙に勝って組閣してから決めればいいものを。鳩山や民主党幹部がこの調子でしゃべり続ければ、党の信用を損なうばかり。政策はすでに固まっているという印象を与えれば、政権を取った後に撤回しなければならない事態を増やすだけだ。

[日本時間2009年08月25日(火)16時22分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story