コラム

「思い出写真」を撮らない理由

2009年07月15日(水)16時17分

ディスパッチズ(Dispatches)』の印刷のために、再び香港を訪れている。数日したら、待ちに待ったタイとカンボジアへの家族旅行だ。休暇に向けて、子供たち用にカメラ付きのスキューバ用マスクを九龍で購入したところだ。こうして休暇の準備をしていると、これまで仕事以外で撮影した写真と思い出がよみがえってきた。

 私は先週、家族と共にアメリカに引っ越すために7年間住んだフランスを離れた。ハーバード大学で1年間、特別研究員をすることになったからだ。振り返ってみると、フランスでの生活をあまり写真に収めていないことに気づいた。大判カメラやiPhoneなどを使って子供の成長を写真で記録した以外は、フランスを描写する写真はほとんど撮ってこなかった。しかも、数少ないフランスでの写真の多くは山火事に関するものだった。

 私の「思い出写真」の対象は身近な人物に限定されている(正直言うと、妻に頼まれたから撮っているだけ)。実際に生活した場所の写真はない。プロバンスの景色は大好きでインスピレーションもかき立てられたのに、ほかの国で撮影するほど写真に収めてこなかったことに驚いている。

 それについて深く考えたことはなかったが、別にわざと考えないようにしていたわけではない。もしかしたらプライベートと仕事を切り離そうとしているのかもしれないし、写真そのものが好きでカメラマンをしているのではないからだろう(私がフォトジャーナリズムの世界に入ったのは、もっと政治的でロマンチックな理由からで、ほかの目的にカメラを使うことに苦労してきたように思う)。

 いずれにせよ、写真を個人的な目的で使用する発想はほとんどなく、家族にカメラを与えることで自分たちで撮影できるように促してきた。

 とにかく私にとって、どんな瞬間を心に留めておくかは神のみぞ知る。頭で記憶しておくことによって、あまり重要でないものは消滅していく。

 以下の写真は私がこの7年間でプロバンスを撮った唯一の写真だ。住んでいた村で馬に乗ったカウボーイが牛を追い、村の端から端に走らせる。地元で行われる年に一度のイベントだ。

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南仏プロバンスのカウボーイ


(C) Photograph by Gary Knight

プロフィール

ゲイリー・ナイト

1964年、イギリス生まれ。Newsweek誌契約フォトグラファー。写真エージェンシー「セブン(VII)」の共同創設者。季刊誌「ディスパッチズ(Dispatches)」のエディター兼アートディレクターでもある。カンボジアの「アンコール写真祭」を創設したり、08年には世界報道写真コンテストの審査員長を務めたりするなど、報道写真界で最も影響力のある1人。

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