コラム

補正予算という麻薬

2009年12月10日(木)14時24分

 鳩山内閣は「ハネムーンの100日」も終わらないのに、迷走を重ねて政権末期の様相を呈してきた。8日、閣議決定された緊急経済対策は7.2兆円と、せっかく削った麻生政権の補正予算2.7兆円と行政刷新会議の事業仕分けで浮いた1.6兆円を帳消しにしてしまった。自民党の大島幹事長が「また補正をやるなら、何のためにわれわれの補正を削ったのか」と批判したのは当然だ。出てきた予算の中身は、4月に出された麻生内閣の補正予算とほとんど変わらないからだ。自民党の補正予算はこういうものだった:

■生活者支援:雇用調整助成金、子育て支援など
■金融対策:中小企業等資金繰り、住宅・土地金融など
■環境対策:エコポイント、省エネ住宅など
■地方の活性化:地方交付税の増額など

これに対して民主党の今回の補正予算は次のとおり:

■雇用:雇用調整助成金、新卒対策など
■景気:中小企業向け金融対策、住宅金融の拡大など
■環境:エコポイント、環境エネルギー推進など
■地方支援:公共事業、地方交付税の補填など

 ちょっと言葉の使い方は違うが、中身はほとんど同じものだということがわかるだろう。同じ官僚機構が編成するのだから、当たり前だ。わずか2週間でドタバタと7兆円以上の予算を組むのでは、新しい事業を考えている時間はない。雇用調整助成金やエコポイントはそっくり同じで、公共事業まで入っている。特に半分近い3兆円が地方交付税の増額だが、これは自民党の補正を減額した分を元に戻しただけだ。

 そもそも補正予算を景気対策に使うという発想は、世界の他の国にはない。日本でも、本来は突発的な災害など、文字どおり本来の予算を補正するものだった。それが小渕内閣のとき「緊急経済対策」として総額10兆円以上の補正を組んだときタガがはずれて、現在のような巨額の財政赤字が積み上がってしまったのだ。麻生内閣が昨年度に実施した2度の補正とあわせると、この1年余りで4回も補正予算を組み、その総額は20兆円を超える。

 亀井金融・郵政担当相が「自民党が昨年度(本予算・補正あわせて)102兆円の予算を使ったのだから、今年度それ以下の予算になるとマイナスの景気対策になる」というのは、補正予算の論理でいえば正しい。今年度102兆円使ったら、景気が上向かないかぎり来年度も100兆円以上の予算を組まなければならない。このように補正予算は麻薬のようなもので、景気が低迷しているかぎり打ち続けなければならない。そうやって問題を先送りした結果、破滅的な事態をまねいた90年代の教訓を民主党は受け継いでいないのだろう。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「人生で最高の栄誉の一つ」、異例の2度目

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story