<世界最高レベルの人材を育てながら、その多くが海外で才能を開花させる――。相反するニュースの背景には、中国科学界が抱える深刻な構造問題がある>
2026年7月、中国の「国家傑出青年科学基金」を獲得した大学学部長クラスのトップ研究者5人が、AIを駆使した元博士課程研究生にデータ捏造を告発された。
中国の学術界がこの告発の嵐の真っただ中にあるなか、米フィラデルフィアで開催された国際数学者会議で、中国籍の若手数学者である鄧煜(トン・ユィ)と王虹(ワン・ホン)の2人が「数学界のノーベル賞」と称されるフィールズ賞を受賞。
この2つの対照的な出来事は、中国のSNSで激しい議論を巻き起こした。
フィールズ賞を受賞した鄧と王は、共に北京大学の卒業生だ。現在37歳でシカゴ大学教授の鄧が歩んだのは、絵に描いたようなエリートコース。
幼少期から英才教育を受け、06年の国際数学オリンピックで金メダルを獲得して北京大学へ推薦入学。大学2年で米マサチューセッツ工科大学(MIT)へ編入し、プリンストン大学で博士号を取得。最高峰の栄誉を手にした。
35歳でフランス高等科学研究所(IHES)の終身教授を務める王の歩みは対極的だ。広西チワン族自治区の田舎町で育ち、一般入試で北京大学に合格。定員枠の都合で当初は不人気学部へ入ったが、独学で猛勉強し念願の数学科への転籍を勝ち取った。
だが数学科は鄧のようなエリート・天才の巣窟だ。周囲に圧倒され、全く存在感を発揮できなかったが、卒業後のフランス留学で「世界で最も深く数学を追究できる場所と素晴らしい教授陣」に出会い、自信を取り戻した。