<低予算・素人出演の中国ニッチ映画が口コミで広がり大ヒットした。日本など国外でも在外華人向けに上映されているが、この映画の高い人気は、中央政府の「思想の統一」に対する反撃でもある>

今年、中国映画界で最大の奇跡と言われているのが、『给阿嬷的情書(おばあちゃんへのラブレター)』だ。無名監督、全員素人のキャスト、製作費わずか1400万元(約3億3500万円)で、使用言語が広東省東部の潮汕(チャオシエン)方言という超ニッチな作品ながら、観客の口コミで徐々に上映館が広がり、5週連続で興行成績首位に。他の大作を撃破して20億元(約480億円)に迫る大ヒットを記録した。

本作が描くのは、かつて潮汕地方の男たちが東南アジア(南洋)へ出稼ぎに渡った激動の歴史と、その歴史に翻弄された家族の物語。若くしてタイへ行ったきり、70年も帰らぬ祖父・木生。その足跡を追って孫がタイへ渡り、90歳近い祖母は思いもかけない真実に直面する。夫ははるか昔に異郷で客死しており、予期せぬ人たちの努力によって、彼女の元に手紙やお金が送り続けられていた──。

この映画が共感の涙を誘ったのは、作中で静かに語られる「一切の計算がない、不器用なまでの誠実さ」が、観客の心に突き刺さったからにほかならない。劇中で祖母が口にする「做人要有情有義(人間、情と義理を重んじて生きるべきだ)」という言葉こそが本作の核心である。

親しい友人や家族が互いを告発する文化大革命の時代を経て、今の中国社会は金儲けのために互いをだます欺瞞にあふれている。目の前で老人が倒れても、トラブルを恐れて手を差し伸べることもできない。

乾き切った現代の中国人が、この映画が宿す無垢な純粋さに激しく揺さぶられているのだ。本作の上映は東南アジアや日本へ広がり、多くの在外華人の心も捉えている。

忘れられた情義と、失われた方言・地方文化の再発見
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