雨が一旦上がった朝空の下、スバシュ・タマン(43)はモンスーンで水かさの増したトリシュリ川の土手で、家族と共に砂を掘り出す作業をしていた。川の水位が突然上がったのは、その時だった。

タマンがいた場所から北におよそ72キロ、ネパールと中国の国境沿いでヒマラヤ山脈の氷河が崩壊し、大量の水と土砂、巨岩が濁流となって集落を次々にのみ込んだ。津波のような土石流は、わずか30分でヌワコット郡にあるタマンの村まで到達した。

タマンはとっさに雑草をつかんで無事だったが、妻と姉、2人の兄弟とその妻たちは流された。兄弟の1人は遺体となって発見され、残る5人は今も行方不明だ。

2日後、タマンは治療を受けるため首都カトマンズの病院に搬送された。「私は全てを失った」と、病床で彼は言う。「突然あんなに水位が上がるとは思ってもいなかった。草をつかんで振り返ると、家族の姿が消えていた」

8月26日に発生した土石流はネパール北部・中部のラスワ郡、ダディン郡、ヌワコット郡の一部を壊滅させた。

死者の数はネパール側で少なくとも1259人、中国側の21人と合わせて1280人になった(9月3日現在)。行方不明者は両国合計で5624人。うち600人近くが外国人で、ヒンドゥー教とチベット仏教の聖地カイラス山に巡礼に来ていた人も多い。

大災害は一瞬で起きたが、引き金となる条件は数十年前から醸成されていた。ヒマラヤでは温室効果ガスの排出で気温が上昇し、氷河が不安定な状態になっているのだ。

6月に学術誌グローバル・アンド・プラネタリー・チェンジに掲載された研究によれば、氷河が崩壊した地域の気温は1940年から約2.6度上昇した。これは、世界平均のほぼ2倍のペースで温暖化が進んだことを示している。

岩氷雪崩が土石流となり猛スピードで流れ落ちた
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