コラム

アフリカに「モビリティ革命」を仕掛ける日本人の猛者...スタートアップ起業家、佐々木裕馬の正体

2023年10月17日(火)08時00分

佐々木氏の次の挑戦はアフリカの小国ジブチでの電力事業だった。「でもこれが見事に大失敗。しかしそこで学んだ経験を糧に、彼は隣国エチオピアでモビリティ事業に挑戦することにしたんです」と吉沢氏。

私が今年8月にエチオピアの首都アディスアベバを訪問したとき、アディスアベバの街は人と車で溢れていた。経済成長の勢いがすさまじいことを感じ取れた。世界銀行によるとエチオピアは過去15年間、年平均10%のペースで経済成長を続けているという。このペースで成長を続ければ、市内の交通は麻痺してしまう。これから公共交通機関を建設していくにせよ、この経済成長の速度には到底追いつかないだろう。といって今でさえ渋滞がひどいのに、これ以上、自動車を増やすわけにはいかない。また政府は外貨の流出を規制しており、国として石油の輸入にこれ以上頼りたくないという思いもある。

一方、エチオピアはアフリカの中でも最も電力供給量が豊富な国の一つで、隣国に余った電力を共有しているほどだ。現在主流は水力発電だが、今後は風力や太陽光発電などにも期待できる。また政府としても2017年に国家電化計画を発表。2025年までに国内のあらゆる場所で電力が利用できるようにする計画だ。世界銀行もこの計画を資金面でバックアップするという。

こういう状況であるならば、性能のいい電動スクーターを提供すれば多くの人に受け入れられるはず──佐々木氏はそう考えた。人材系SNSの「LinkedIn」を通じて中国メーカーにパイプを持つシンガポール人エンジニアにアプローチした。彼はシンガポール国立大学卒のエリートで、日本の大手メーカーに6年勤務した経験を持つ。佐々木氏の頼もしい片腕になってくれた。佐々木氏の思いに賛同する優秀なエチオピア人の幹部も集まってきた。起業経験、経営経験を豊富に持つエチオピア人が政府との交渉担当になってくれた。

部品は中国から調達し、エチオピアで組み立てた。そして今年8月に発売。最初のロットがあっという間に売り切れた。現在さらに多くの部品の輸入を進めている。社長が日本人ということもあり、壊れにくいという日本製品のブランド力も追い風になったようだ。

電動スクーターのコストのかなりの部分はバッテリーになる。今はまだ買い取りだが、佐々木氏は今後バッテリーのレンタル事業を検討しているという。バッテリーを買い取りではなくレンタルにすれば、電動スクーターの本体はより安価になり、より多くの人にとって購入しやすい価格帯になるはず。一方で、市内のあちらこちらにバッテリー交換ステーションを開設し、ユーザーの利用記録を集計することで、Dodai側でそれぞれの電動スクーターの使用状況を把握できるようになる。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:日経5万円で海外マネー流入加速の思惑、グ

ワールド

EU大統領、中国首相と会談 鉱物輸出規制に懸念表明

ビジネス

東証、ニデックを特別注意銘柄に28日指定 内部管理

ビジネス

HSBC、第3四半期に引当金11億ドル計上へ マド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story