コラム

カタルーニャ、クルド、ウイグル 独立運動が世界を包囲する

2017年11月13日(月)11時35分

戦後世界を線引きした米英ソによるヤルタ会談(1945年2月) Photo 12-UIG/GETTY IMAGES

<世界各地で国境線の見直しを求める分離独立運動とテロの動きが――少数民族が大国優先の戦後秩序に挑むときが来た>

スペイン北東部のカタルーニャ自治州は10月27日に独立宣言に踏み切ったものの、EUの支持が得られなかった。

「明日になったらEU加盟国が現在の28カ国から95カ国まで増えた、という状況は望まない。これ以上の分断や亀裂はごめんだ」と、欧州委員会のユンケル委員長は言い切った。EUは強硬なスペイン中央政府側に立って、弱い立場のカタルーニャを冷遇している。だが、地元の独立精神は衰えを見せていない。

ヨーロッパにはほかにも分離独立志向の強い地域があり、いつ、どんな形で独立運動に火が付くか分からない。

こうした国境の見直し機運はヨーロッパをはじめ、ユーラシア全体に広がっている。最近でもユーラシアの中間部で2つの「国家」がついえたかのような出来事があった。

1つは「イスラム国」を自称するテロ組織ISISだ。14年1月にシリア北部の都市ラッカを制圧し、6月にはイラク北部の都市モスルを占拠して「建国」を宣言。ラッカを首都とする同「国」の指導者アブ・バクル・アル・バグダディが演説で主張したのは、「100年前の第一次大戦後に、西洋列強が引いた国境線の引き直し」だった。

皮肉なことに、「イスラム国」を壊滅に追い込んだ主力の1つ、クルド人も「国境線の引き直し」を唱えてきた。10月17日にラッカを奪還したシリア民主軍の中核を成すのはクルド人武装組織だ。もともと粗悪な武器しか手にしていなかった彼らが強力な戦闘部隊に変身したのは、アメリカの支援があったからだ。

地元住民の存在を無視

イラクでも同様に、ISISの拠点モスルを解放したのはクルド人武装組織だ。クルド人はイラク北部の油田地帯キルクークを中心に、独立を勝ち取ろうとして住民投票を実施。92%を超える圧倒的多数で独立賛成の結果が示されたものの、イラク政府軍の進撃を前に「クルド人准国家」はいとも簡単に独立の旗を降ろしたように見える。

クルド自治政府内の権力抗争が挫折の一因とされるが、隣国のイランとトルコによる謀略まがいの圧力も功を奏した。イランもトルコも、イラクやシリアに住むクルド人の独立に賛成していない。自国内に住むクルド人が新生国家への合流を目指して分離独立運動を起こすのを防ぐためだ。こうして、「国家を持たない世界最大の民族」クルドの理想はアラブとイラン、トルコのエゴによって封殺された。

こうした独立運動が起きるのも、100年前にヨーロッパ列強が他人の土地を勝手に分割して国境線を設定し、クルド人など地元住民の存在を完全に無視したからだ。「国境線の引き直し」の点で、クルド人の主張とアラブ人を中心とするISISの理想は重なる。「テロリスト」と「解放者」の双方が国際社会から等しく冷淡に扱われている現状に何ともいえない無力感が漂う。抑圧される側はいつまでも戦い続けるしかない。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 一時400

ビジネス

南ア、第3四半期GDPは前期比0.5%増 市場予想

ワールド

米ロ、ウクライナ和平案で合意至らず プーチン氏と米

ワールド

トランプ氏、米に麻薬密輸なら「攻撃対象」 コロンビ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story