コラム

マクロン新大統領の茨の道-ルペン落選は欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」か?

2017年05月08日(月)11時30分

Christian Hartmann-REUTERS

<フランスで7日に行われた大統領選の決選投票は、マクロン前経済相が勝利した。しかし、マクロン新大統領が、2回投票制のおかげで獲得した66%に見合うほどの国民の支持と委任を受けたわけでは決してない...>

7日に行われた決選投票の結果、マクロン候補が66.06 %の支持を得てフランス大統領に当選した。既成政党の枠組みから離れ、右でも左でもないという立場から、自らの新しい政治運動「さあ前進!」を立ち上げ、政治に新風を吹き込んだ若きエリートに、フランス国民はフランスの将来を託す選択をした。一方、「極右」とされる国民戦線のルペン候補は、反エリートの立場から、反EUや反移民を訴え、第5共和政史上最高の得票(33.94%、約1,064万票)を得たが、その急進的な主張と反知性的扇動に対する反発も強く、大統領への道を阻まれた。

yamada1.jpg

この決選投票に臨んだフランス国民は、政策も思想も性格もまったく対極にあると言ってもいいほど対称的な二人のうち一人を選ばなければならないという、難しく悩ましい選択を迫られた。それは、特に第1回投票で急進左派のメランション候補か右派のフィヨン候補(いずれも約2割の得票率)に投票した有権者(およそ1,400万人)にとって切実であったに違いない。

yamada2.jpg

メランションの公約や主張に鑑みると、かれに投票した人は、左派(リベラル)でありながら、閉ざされたフランスを志向する。多文化主義的で移民にも寛容でありながら、グローバル化に背を向け、保護主義を擁護し、反EUだ。この人たちは、ルペンとマクロンの決選投票で、自分たちのリベラルな価値観と反グローバル的志向のどちらを優先するかという選択を迫られた。リベラルな価値観を優先し、マクロンに投票することとすれば、同時に、自分たちの反グローバル的志向を封印しなければならない。逆に、反グローバル的志向を優先し、ルペンに投票することとすれば、同時に、自分たちのリベラルな価値観を封印しなければならない。どちらも嫌なら、棄権するか白票を投じるしかない。

yamada3.jpg

一方、フィヨンの公約や主張に鑑みると、かれに投票した人は、保守的でありながら、開かれたフランスを志向する。フランス固有の文化や伝統・秩序を重んじ、移民にはやや厳しい姿勢でありながら、グローバル化に対し積極的で、自由貿易や競争を重んじ、欧州統合推進派だ。この人たちは、ルペンとマクロンの決選投票で、自分たちの保守的な価値観とグローバル化志向のどちらを優先するかという選択を迫られた。保守的な価値観を優先し、ルペンに投票することとすれば、同時に、自分たちのグローバル化志向を封印しなければならない。逆に、グローバル化志向を優先し、マクロンに投票することとすれば、同時に、自分たちの保守的な価値観を封印しなければならない。どちらも嫌なら、棄権するか白票を投じるしかない。

【参考記事】フランス大統領選挙-ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story