コラム

サイバー攻撃で、ドイツの製鋼所が甚大な被害を被っていた

2015年09月01日(火)17時30分

 あるいは、ラックの伊東寛ナショナルセキュリティ研究所所長によれば、システムのアップデートの中にマルウェアを仕込むこともできなくはないだろう。最初に出荷された時点の制御ソフトウェアに何も異常がないことが確認できたとしても、後からベンダーがアップデート・プログラムに不正なコードを紛れ込ませれば、異常を引き起こすこともできるだろう。実際、アップデートがさらに問題を引き起こしてしまうことはこれまでもあった。

 一般的には、パソコンのOSやアプリケーション・ソフトウェアのアップデートはセキュリティ上、重要とされている。次々と発見される脆弱性にパッチを当てることができるからである。しかし、そのアップデートそのものが危険であれば、我々はなかなか認知できない。

 まして、人間が介在すれば、エアギャップ(システムをインターネットから隔離しておくこと)は簡単に飛び越えられる。スタックスネットで行われたといわれるように、USBメモリなどに不正プログラムを入れて、現場で制御システム用のコンピュータに挿入するだけで良い。

インテリジェンス機関とサイバーセキュリティ

 こうしてみると、ドイツのインテリジェンス機関であるBSIが報告書を出したことからも分かる通り、サイバーセキュリティはインテリジェンスの世界、スパイの世界になっていることが分かる。単なる技術的な問題ではなく、外交や国際政治と交錯する世界であり、現実世界の国際政治の問題がサイバースペースにも持ち込まれている。サイバースペースはもはや独立した観念的な世界ではない。現実世界の問題がサイバースペースに反映され、サイバースペースの不具合が物理的な被害をもたらす。

 今年8月に米国ラスベガスで開かれたブラックハットという会議で、スタンフォード大学の研究者であるジェニファー・グラニックは、インターネットはもはやイノベーションを生み出す地ではなく、インターネットの自由という夢は死につつあると宣言した。私自身はそこまでは考えないが、確かに20年前と様変わりしてしまっていることは否定できない。世界を変えるイノベーションを今後も我々が必要とするなら、サイバーセキュリティの問題をスパイだけに任せておくわけにはいかないだろう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story