コラム

「21世紀の通信使」が日韓関係を救う

2024年10月11日(金)19時30分
カン・ハンナ(歌人、タレント、国際文化研究者)
日本の岸田文雄首相と韓国の尹錫悦大統領

JUNG YEON-JE-POOL/GETTY IMAGES

<かつて日本と朝鮮王朝の交流を担った外交使節団「朝鮮通信使」の復元船が2世紀半ぶりに日本に来航した。日韓政治のいざこざをよそに、今や個人が文化交流の役割を担う時代が来た>

先日、日韓関係にまつわるとてもうれしいニュースを目にした。江戸時代に朝鮮王朝が派遣した外交使節団「朝鮮通信使」の復元船が、山口県下関市で8月に開催された「馬関まつり」に合わせて、260年ぶりに来航したのだ。

日本で朝鮮通信使がどれほど知られているのかは分からないが、私の母国である韓国では、日韓の文化交流の代表的な存在として知られる。朝鮮通信使は、豊臣秀吉の朝鮮出兵を機に断絶した国交を回復させるため、朝鮮王朝が1607年から派遣し、その後1811年までの間に12回も来日して学問や文化の交流を深めたことは、中学生の頃に学校で教わっていた。だからこそ、およそ2世紀半ぶりに朝鮮通信使の復元船が日本に来航したというニュースを見て、個人的には胸がいっぱいだった。

朝鮮通信使260年ぶりに日本本土へ... 1000km船道再現/KBS News


最近の日韓関係は、戦後最悪とも言われていた数年前と比べて良い方向に向かっていることは確かだ。

例えば、今年5月に行われた日中韓3カ国の首脳会談では来年からの2年間を「文化交流年」と位置付け、3カ国の観光を通じた人的交流や大学間交流を促進し、2030年までに交流人口を4000万人まで増やす目標が掲げられた。加えて、来年は日韓国交正常化60周年でもあり、国レベルで行う交流行事なども期待できる。

日韓の間ではこれまで政治や外交ではさまざまな問題が起こってきた。その一方で、数百年以上も地道に文化交流を続けてきたからこそ、相互理解も深まってきたのだとつくづく思う。

例えば、05年の日韓国交正常化40周年を記念して始まり、東京とソウルで毎年開催されている「日韓交流おまつり」や、自治体が日韓姉妹都市を締結して互いの地域文化を体験できる場をつくるなど多様な文化交流が行われている。教育分野でも、日韓の文化や社会を学ぶ授業や交換留学は数え切れないほどある。

国家の枠を超え官民レベルでさまざまな交流が行われてきたからこそ、両国に関心を持つ人も自然と増えてきたのだろう。

正直、十数年前に私が日本に来たばかりの時と比べると、日韓関係は見違えるほど変わった。周囲には韓国語が話せる日本人が驚くほど増え、街には当たり前のように韓国料理屋が並んでいる。動画配信サービスなどでは韓国のドラマや映画が日本の人気ランキングに入ることも多い。東京はもちろん、地方都市でも韓国人観光客は珍しい存在ではなくなった。

一方、最近の韓国では若者を中心に「おまかせ料理」を食べる贅沢なデートプランが人気で、「おまかせ」という日本語を知らない若者はほとんどいないほどだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏率いる政府効率化組織、報告書を発表へ=トラ

ワールド

政治・経済の安定化進む南ア、投資適格級獲得は当面困

ビジネス

中国の粗鋼生産、10月は前月比+6.2% 5カ月ぶ

ビジネス

午前のドルは一時156.76円まで上昇、4カ月ぶり
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:またトラ
特集:またトラ
2024年11月19日号(11/12発売)

なぜドナルド・トランプは圧勝で再選したのか。世界と経済と戦争をどう変えるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 3
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラッドレー歩兵戦闘車が「戦略的価値を証明」する戦闘シーン
  • 4
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 5
    NewJeansメンバー全員が事務所に最後通告「ミン・ヒジ…
  • 6
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    NewJeansのミン・ヒジン激怒 「似ている」グループは企…
  • 9
    ウクライナ軍ドローン、1000キロ離れたロシア拠点に…
  • 10
    新たな大谷翔平伝説が始まる...「ますますリスペクト…
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 3
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラッドレー歩兵戦闘車が「戦略的価値を証明」する戦闘シーン
  • 4
    「歌声が聞こえない」...ライブを台無しにする絶叫フ…
  • 5
    ウクライナ軍ドローン、1000キロ離れたロシア拠点に…
  • 6
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 7
    「遮熱・断熱効果が10年持続」 窓ガラス用「次世代…
  • 8
    NewJeansのミン・ヒジン激怒 「似ている」グループは企…
  • 9
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 10
    海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「空母化」、米…
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 6
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 7
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 10
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story