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ロシアが恐れる「柴犬の軍団」NAFO...ウクライナの「ミーム」が、プーチンのプロパガンダを粉砕?

MEME DEFIANCE

2026年1月16日(金)15時45分
ミシェル・ブシャール (カナダ・ノーザンブリティッシュコロンビア大学教授)
聖ジャベリン

日本の柴犬がロシアへの抵抗のシンボルに? otsphoto-shutterstock

<プーチンのミサイルにもトランプの「口撃」にも、ネット市民は「ミーム」で抵抗を続ける>

2022年2月24日、ロシア軍の戦車が国境を越えてウクライナ領に侵入し、首都キーウへの進撃を始めたとき、首都陥落は時間の問題と思えた。しかし違った。14年のマイダン革命で親ロ派の政権を打倒したウクライナ人の士気と民族意識は高く、兵士は踏ん張り、市民は耐えた。そしてインターネットには、国民を鼓舞するミーム(拡散しやすいフレーズや画像など)があふれた。

【画像】ウクライナで生み出されたミームたち

最初期の傑作は「聖ジャベリン」。ウクライナ軍の携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」を抱く聖母マリアの図で、侵攻開始直後に投稿され、瞬く間にネット空間に拡散した。


ロシア軍の車列を混乱させるために道路標識を撤去し、あるいは書き換えた市民の功績をたたえる標識ミームも出現した。そこには「直進すれば地獄行き」「左折しても地獄行き」「ロシア方面に戻るも地獄」などと記されていた。

侵攻初日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」から攻撃を受けたズミイヌイ(英語名スネーク)島の国境警備隊員が降伏要求に対して発した、「ロシアの軍艦よ、くたばれ」という語もミームとなり、その勇姿を描いた記念切手まで発行された。

「ミーム」はイギリスの進化生物学者リチャード・ドーキンスが1976年に提唱した概念で「文化の伝達や模倣の単位」を意味する。この語はギリシャ語のmimeme(模倣されるもの)に由来する。ドーキンスはこれを生物学上のgene(遺伝子)になぞらえ、自己増殖(複製)を繰り返して仲間を増やしつつも、その過程で変異を起こし、新たな意味を獲得していくものと定義した。

ミームはツイッター(現X)のようなSNSのユーザーによって作られ、拡散されてきた。象徴的な画像や短い動画に簡潔で気の利いたテキストを組み合わせるのが基本的な手法で、その点では伝統的な風刺漫画と似ている。主として時事的な問題を取り上げ、鋭い突っ込みを入れる点も似ている。ただし誰もが自由に作り、シェアし、拡散できるという点では、アナログな風刺漫画よりもずっとアナーキーだ。

ウクライナ人の心意気

ウクライナ側の自発的なミーム発信者たちが立ち向かったのは、ロシア政府の操る巨大なプロパガンダ機関。そこには政府に雇われた公認のサイバー工作員もいれば、国内外のワトニク(ロシアの政府や軍部の主張を無条件で信じ、それを拡散させる人たち。19世紀末に当時の帝政ロシア軍の兵士らに支給された防寒服の名に由来する)もいる。

ロシア側の情報戦に対抗するため、ウクライナのキーボード戦士たちは共通のシンボルマークとして「NAFO」というミームを立ち上げた。言うまでもなくNATO(北大西洋条約機構)のもじりで、Fは英語のfella(仲間)を表す。ちなみにNAFOのアバター(分身)としてよく用いられるのは、なぜか日本原産の愛すべきシバイヌの絵だ。

NATOと違ってNAFOに特定の指導部は存在しないが、何万人もの「仲間」がいる。そして思い思いにロシアを嘲り、こき下ろすミームを制作している。

例えば、王冠をかぶったロシア大統領ウラジーミル・プーチンが戦車型の粗末な屋外トイレに座り、戦車の砲身から汚水が放出されている図。そのトイレの屋根に載せた表札には「パラシャ」というロシア語が記されている。元は刑務所の独房にある便座を指す語だが、日常的には蔑称として用いられている。

こうしたミームは今も続々と誕生している。新しいところでは、アメリカのドナルド・トランプ大統領が提示した「28項目の和平提案」を揶揄したものがある。そこでは巨大なアメリカ国旗とトランプの似顔絵にかぶせて28のピースから成る「トロイの木馬」が描かれており、トランプは平和の使者どころかウクライナ占領の先兵だと示唆されていた。

ウクライナ発のミームは、今や自国の政府にも批判の矛先を向けている。例えば、ヘッドフォンを着けた2人の情報機関職員が何かをにらみつつ「(スティーブ・)ウィトコフの発言記録のほうが(ティムール・)ミンジチのよりずっと面白いぞ」とつぶやくイラストがある。

ミンジチはユダヤ系ウクライナ人の著名実業家で同国のゼレンスキー大統領とも近いが、エネルギー関連の取引で1億ドル相当の不正な資金還流を受けた疑いで捜査対象となっている人物。そしてウィトコフはトランプ政権の和平担当特使だが、交渉の過程でロシア側に「助言」していたことが暴露されている。

こうしたミームの拡散は、今もウクライナの人々がロシアへの抵抗を続けていることの証しであり、いくらトランプが「おまえたちに切れるカードはない」、さっさと降伏しろと脅しても絶対に屈しない決意の表明でもある。そう、ミームを見ればウクライナ人の心意気が見える。

The Conversation

The Conversation

Michel Bouchard, Professor of Anthropology, University of Northern British Columbia

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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