最新記事
ミャンマー

絶望に追われ、戦場へ向かう若者たち...「ロヒンギャ難民」の選択【note限定公開記事】

WHERE DESPAIR LEADS

2025年9月16日(火)17時05分
マーガリット・クレアリー(国際危機グループ・アジア地域広報担当)
難民キャンプで開かれた『大量虐殺の日』の集会で声を上げるロヒンギャ難民たち

故郷を追われて8年、難民キャンプで開かれた「大量虐殺の日」の集会で声を上げるロヒンギャたち(8月25日) PIYASBISWAS―SOPA―REUTERS

<帰還を夢見てたどり着いた難民キャンプは、いまや飢えと絶望に覆われている。支援の後退と暴力の連鎖に追い込まれ、若者たちは武器を取るしかないという選択に迫られている>


▼目次
1.行き場を失った若者たちの選択
2.残虐行為が広げる武装闘争の支持
3.生き延びるための犠牲、嫁がされる娘たち
4.ロヒンギャ難民が過激化に傾く理由

1.行き場を失った若者たちの選択

ミャンマー国軍の大規模な弾圧によって、数十万人のロヒンギャがバングラデシュに逃れてから8年。何としても故郷に帰りたいという思いから、武器を手にする若いロヒンギャ難民が増えている。

キャンプに閉じ込められたロヒンギャの若者たちは、合法的な就労の機会を得られず、先細りする援助に頼るしかない。武装組織に参加するよう迫られる若者も増えてきた。

筆者が属するNGOの「国際危機グループ」は今年初め、ロヒンギャによる武装蜂起の危険性に関する調査の一環として、バングラデシュ南東部コックスバザールにあるクトゥパロン難民キャンプを訪れた。

私たちが話を聞いた若者の多くは、きょうだいや親戚、知人が武装組織に勧誘されるか、参加を強制されたことがあると語った。

難民が戦闘に立ち上がろうという兆しは明確には見られなかったが、若者たちの話からは武装闘争への支持が高まっていることへの不安が感じ取れた。

「いとこがロヒンギャの武装組織に加わり、戦闘に参加するためミャンマーに渡った」と、アリ(26)は声を潜めて言った。「彼は連れ戻せたが、ほかの人は戻ってこなかった」

アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)やロヒンギャ連帯機構(RSO)など、対立し合うロヒンギャの武装組織は、昨年後半まで難民キャンプの支配権をめぐって抗争を続けていた。

だがその後、より強大な敵であるアラカン軍に対抗するために手を結んだ。

ミャンマー軍とも対立するアラカン軍は仏教徒ラカイン人の武装勢力で、ミャンマー西部ラカイン州の大半を掌握している。同州はロヒンギャの出身地で、難民たちが帰還を望んでいる場所だ。

イスラム教徒のロヒンギャと仏教徒のラカイン人は、長年にわたって対立関係にある。

2012年にはラカイン州の州都シットウェなどで衝突し、双方に数百人の死者が出た。避難した人は14万人を超え、その大半がロヒンギャだった。

17年には、ARSAがラカイン州北部で警察施設を一斉攻撃したことに対し、ミャンマー軍が苛烈な掃討作戦を実施。70万人以上のロヒンギャがバングラデシュに逃れた。

最近、ラカイン州で攻撃を行っているのはアラカン軍だ。

昨年はイスラム教徒が多いラカイン州北部で攻勢を仕掛け、ミャンマー軍だけでなくARSAやRSOなどロヒンギャ武装組織とも交戦。

敵対し合っていたARSAとRSOは結託し、アラカン軍による国境地帯の制圧を阻止しようとしたが、失敗に終わった。

2.残虐行為が広げる武装闘争の支持

この戦闘では、ラカイン州で暮らしていた多くのロヒンギャが、兵力不足に悩むミャンマー軍指揮下の民兵部隊に強制的に入れられた。

バングラデシュの難民キャンプからも1000人以上のロヒンギャが徴用され、密入国する形で戦闘に参加させられた。

アラカン軍はラカイン州北部を掌握するに当たり、ロヒンギャに深刻な人権侵害を行ったと非難されている。

数十カ所の村を焼き払ったほか、昨年8月にはミャンマーとバングラデシュの国境を流れるナフ川の岸辺で無人機攻撃を行い、数十人を殺害。

アラカン軍は昨年12月にラカイン州北部を完全掌握したが、その後も残虐行為を続けているとされる。

バングラデシュの難民キャンプでは人々の怒りが募り、ロヒンギャの武装闘争に対する支持につながっている。

昨年後半にARSA、RSOなどの勢力が停戦に合意してからは、難民キャンプ内で起きていた派閥間の暴力事件も大幅に減った。だが、それで事態が収束したわけではない。

「男の子たちが(勧誘の)標的にされている」と、若い女性のグループは国際危機グループに訴えた。

スルタナ(19)は、武装組織への非難を率直に口にした。「いとこがARSAに加わった。でもミャンマーに着くと、武器も自分たちの身を守る手段も与えられなかった。そんな状況で、私たちのために戦えるはずがない」。

いとこは昨年、戦闘中に27歳で亡くなったという。

今も多くのロヒンギャ難民が武装組織には批判的で、虐待行為を非難している。それでも難民たちの間で、武装闘争自体への支持は高まっているという。

その要因は、今もラカイン州に住むロヒンギャに対するアラカン軍の残虐行為への怒り、そして武力に訴える以外に選択肢がないという絶望感だ。

3.生き延びるための犠牲、嫁がされる娘たち

◇ ◇ ◇

記事の続きはメディアプラットフォーム「note」のニューズウィーク日本版公式アカウントで公開しています。

【note限定公開記事】絶望に追われ、戦場へ向かう若者たち...「ロヒンギャ難民」の選択


ニューズウィーク日本版「note」公式アカウント開設のお知らせ

公式サイトで日々公開している無料記事とは異なり、noteでは定期購読会員向けにより選び抜いた国際記事を安定して、継続的に届けていく仕組みを整えています。翻訳記事についても、速報性よりも「読んで深く理解できること」に重きを置いたラインナップを選定。一人でも多くの方に、時間をかけて読む価値のある国際情報を、信頼できる形でお届けしたいと考えています。

From thediplomat.com

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中