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お父さんはなぜ「プリン窃盗犯」扱いされたのか...3つの問題点を検証する

2025年4月7日(月)12時05分
印南敦史(作家、書評家)

お父さん犯人説以外の可能性を見落としている


   その3 お父さん犯人説以外の可能性を見落としている
 三つ目に「お母さんはそんなことをしないはずだ」という推測の根拠は薄弱です。それなのに、お母さんが子どものものだと知りつつもプリンを食べたり、間違って食べたりしたという「お母さん犯人説」を思い込みによって排除してしまっているという問題があります。(60ページより)

お父さん犯人説に対するお母さん犯人説のような反対仮説は、刑事裁判では「アナザーストーリー」と呼ばれているそうだ。

そして、思い込みから視野が狭くなってしまう「トンネル・ビジョン」(あたかも暗いトンネルの中にいるような視野狭窄)に陥ることによってアナザーストーリーが見落とされてしまう結果、冤罪は生まれてしまうのである。


 以上より、今回モデルにした事件では、
   誰も犯人を目撃していないという証拠がない事件であったこと
   性格や過去の事実に基づく不確かな推測によって犯人を特定したこと
   お父さん犯人説以外の可能性を見落としてしまったこと
 が原因となって、犯人を間違えてしまったということができるでしょう。
 実際、刑事裁判では、上記のような間違いの原因に対し、
   単なる推測を述べる証人は証拠として採用しない
   悪性格に関する証拠は原則として採用しない
   アナザーストーリーの合理的疑いが拭えない限り有罪判決を下さない
 といった対策がとられています。(60〜61ページより)

ここからも分かるとおり、人間の直感的・印象的判断には誤りが少なからずあり、それは日常生活内にもあふれている。もちろんそれは、実際の刑事事件においても同じだ。

すなわち警察官や検察官のような捜査機関のほか、弁護士や裁判官であっても、人は誰でも間違える可能性があるのだ。

つまりはそれこそが、冤罪を生む事由のひとつでもあるのだろう。

冤罪 なぜ人は間違えるのか
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 西 愛礼 著
 インターナショナル新書

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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。最新刊は『現代人のための 読書入門』(光文社新書)。

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