最新記事
荒川河畔の「原住民」(21)

ホームレスが「かりゆし58」前川真悟さんと作った名曲「かわがないてるよ」を知っているか

2025年2月14日(金)18時00分
文・写真:趙海成

命を絶やそうとする若者を説得し、立ち直らせた

「3日間も何も食べていない彼は、その日の朝早くからあちこちを歩き、自分の命を終えるのに最適な場所を探して回っていました。高いビルに上がったり、駅のホームに入ったり、大きな橋に登ったりしたけれど、どこでも、誰かが自分を見つめているような気がしたそうです。

そして最後に荒川の川辺に来て、ついに体を支えることができなくなり、この芝生の上に倒れた。

彼が自殺したかった理由は複雑ではありません。会社で人間関係がうまくいかず、他人から疎外され、抑圧され、もう生きていきたくなくなってしまったそうです。

僕は辛抱強く説得しました。彼は少し良くなって、気分もだんだんすっきりしてきました。そして立ち上がり、『もう自殺しようとは思いません。元気を出して、仕事を頑張りたい』と言ってくれました。彼が別れを告げたとき、僕は手元にあるわずかなお金を、電車代とパン1個を買うために渡そうとしたんですが、受け取ってくれませんでした」

私はさらに聞いた。「その若者に具体的に何を話して説得できたのですか」

「思い出した。僕は当時、こう説得したんです。『あなたの前にいる私をよく見てください。あなたの下には、私のような、貧しく、もがいて生きているホームレスおじさんがいる。あなたは若くて、まだ死ななければならないほど惨めではない。だから、僕を踏み台にして、前に進んでください。苦しくても、生きている限り、いつか幸せな日を迎えることができますよ!』」

征一郎さんはその後、若者がどうなったかは分からないという。

「僕の経験から言えば、一度自殺を考えたことがある人は、また繰り返そうとするかもしれない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中