「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

OPPORTUNIST SUPREME

2024年7月5日(金)17時18分
広野真嗣(ノンフィクション作家)

newsweekjp_20240704050511.jpg

今年4月、衆院補選に挑んだ乙武の応援演説に駆け付け水分補給 ©SANKEI

例えば2022年、都は性的少数者のカップルを対象とするパートナーシップ宣誓制度を開始。23年には、妊娠・出産を望みつつ仕事など環境が整わない女性のための卵子凍結の助成制度も導入した。

「さらに小池さんに近い(衆院議員の)野田聖子さんや都民ファの都議たちからも話を聞いていて、小池さんは女性やマイノリティーへの思いがある人なんだ、本人はあまり語らないけれど、その思いは本当だなと感じるようになったんです」(乙武)


今年3月、乙武擁立を発表した際、小池は、「インクルーシブな社会を体現する人物」と起用理由を述べて乙武を感動させている。その上、距離の縮め方にも小池流があった。

「連日長時間、一緒に選挙カーに乗っていると、車椅子に備えた水筒を取って『ハイ、水分補給』と口元で持ってくれたり、チョコやのどアメを口に放り込んでくれたり。そんな一面があって、意外だったんです」

世話焼きは選挙後も続き、つばさへのストレスから不眠症に悩まされていた乙武に、5日間にわたって毎日、体を気遣う電話をよこしたというのだ。

正直、私は驚いた。と同時に、小池はそこまで乙武という新しい力に執着していたのかとも感じた。

小池は世論が求めているものに敏感な政治家だ。小泉純一郎内閣の環境相在任中の05年、クールビズの旗振り役を務めたが、小泉が郵政解散を打つやいなや反対派への刺客に名乗り出て脚光を浴び、同時に小泉に自分を売り込んでみせた。

環境意識や改革への期待の高まりといった新しい潮流を取り込みながら権力の階段を上り、その都度、「頼りになる誰か」を見つける嗅覚は天才的といえる。

その誰かとは、1990年代は細川護熙や小沢一郎であり、2000年代は小泉だ。最長政権を築いた安倍晋三は小池を苦手としたが、その小池についてはこう言い表した。

〈小池さんはいい人ですよ。いい人だし、人たらしでもある。相手に勢いがある時は、近づいてくるのです。2016年に知事に就任した当初は、私の背中をさすりながら話しかけてきて、次の衆院選では自民党の応援に行きますからね、とまで言っていたのです。

しかし、相手を倒せると思った時は、パッとやってきて、横っ腹を刺すんです〉(『安倍晋三 回顧録』)

安倍をさすった1年後の都議選で都民ファを率いた小池は圧勝し、自民党は歴史的大敗を喫した。その余勢を駆った小池は国政政党・希望の党を立ち上げ、あわや政権交代か、という局面を創出してみせた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中