最新記事
ガザ戦闘

各国に散ったハマス幹部は「全員、死刑囚」...イスラエル情報機関「モサド」の暗殺作戦が始まった

KILLING THEM SOFTLY

2024年2月6日(火)18時50分
アンチャル・ボーラ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

トルコの世論にもパレスチナを支持する声は非常に大きい。10年にトルコの人権団体などが組織した船団が、イスラエルの海上封鎖を突破してガザに支援物資を届けようとしたところイスラエル軍の襲撃に遭い、トルコ人10人が犠牲になったこともある。今回のガザ戦争は、両国関係が修復し始めたときに起きた。

イスラエルは、こうしたトルコの敏感な部分を認識しており、エルドアンがハマスの幹部を大量に受け入れたりでもしない限り、トルコ領内ではハマス関係者の暗殺は控えるとみられている。「(トルコは)軍事大国であり、NATOの加盟国であり、(対応を間違えればイスラエルにとって)大きな頭痛の種になり得る」と、イスラエルの元情報将校であるエラン・レルマンは語る。

「イランがトルコ国内でイスラエル人の殺害を計画していたとき、トルコ当局が実行を阻止したこともある。トルコとイスラエルの情報機関が、常時連絡を取り合う仕組みもある」

だが、「カタールは話が別だ」とレルマンは言う。「カタールはハマスに資金を提供していた。イスラエルが把握している以上の金額を送っていたと信じるに足る証拠がある」

カタールの二枚舌に怒り

イスラエルにとって、カタールに潜伏するハマス幹部を殺害する案は、ずっと前向きに考えやすい。何しろカタールは12年にハマスの幹部を受け入れ始め、毎年数百万ドルをガザに送金してきた。それは困窮するガザ市民を助けるだけでなく、ハマスを支援するためにも使われてきたと、イスラエル当局は考えている。

それと同時に、カタールは、これまでにイスラエル人の人質100人以上が解放される上で、欠かせない役割を果たしてきた。だが、イスラエルとアメリカの政府関係者は、カタールが平和の仲介者を演じながら、実のところハマスに手を貸しているのではないかと疑っている。

アメリカの議会では、カタールがハマスに圧力をかけて、残りの人質を解放させるべきだという声もある。「私たちはムカついている」と、最近カタールを訪問したジョニ・アーンスト上院議員は、ムハンマド外相に面と向かって言ったとされる。

ハマス幹部の追放または引き渡しに応じなければ、「NATOの加盟国ではないが、NATOの同盟国」という特別な地位をカタールから剝奪することも考えるべきだという声も、米政府内では聞かれる。

だが、カタール政府は、ハマスとの間に正式な連絡ルートがあることはプラスになると言い張っている。また、中東最大の米軍基地に土地を提供しているほか、世界第3位の天然ガス埋蔵量であることも、一定の影響力を自負する原因となっている。だが、カタール政府に対する圧力は今後も高まっていくだろう。

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、台湾への武器売却承認 ハイマースなど過去最大の

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中