最新記事
ウクライナ情勢

ロシアが初めてSu34戦闘爆撃機から極超音速ミサイル「キンジャール」を発射、その戦術的意味は

Russian Su-34 jet hits Ukraine with hypersonic "Kinzhals" in war's first

2023年9月5日(火)18時55分
エリー・クック

キンジャール極超音速ミサイルと搭載したミグ31迎撃戦闘機(2022年、モスクワ) REUTERS/Maxim Shemetov

<Su34からキンジャールを発射できるようになれば、ミグ31がこれまでの「乗り物」の役割から解放され、迎撃戦闘機としての本来の役割に投入できる>

<動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

ロシア軍が初めて、極超音速ミサイル「キンジャール」を戦闘爆撃機「スホーイ34(Su34)」から発射したと、ロシア国営メディアが報じた。これはウクライナ戦争における、ロシア空軍の大きな戦術転換を意味する可能性がある。

ロシア国営タス通信は9月4日、「空爆の際にSu34爆撃機が極超音速ミサイルのキンジャールを使用した」と報じた。

「ダガー」や「キルジョイ」の別名でも知られるロシアのキンジャールは、2022年2月にロシアがウクライナへの本格侵攻を開始した後すぐに、ミサイル攻撃に使われるようになった。

ロシア国営メディアの報道によれば、キンジャールが初めて使われたのは2022年3月半ば。ウクライナ空軍はこれまで幾度か、ロシア軍がウクライナ領内への攻撃にキンジャールを使用したと報告しているが、ロシア軍が使用するほかの種類のミサイルに比べれば頻度は少ない。

空対地ミサイルのキンジャールは一般に、Su34ではなく、旧ソ連時代の迎撃戦闘機「ミグ31K」から発射されてきた。ロシア国営メディアの複数の報道は、ロシア軍が保有する超音速長距離爆撃機「TU22M3」と「Su34」が、キンジャールを搭載できるよう改造された可能性があると示唆している。つまり今回の報道は、ロシア軍が新たなタイプの軍用機にキンジャールを搭載するのに成功したことを初めて示した。

キンジャールは「無敵ではない」

英シンクタンク「王立統合軍事研究所」のシッダールト・カウシャル研究員は、キンジャールを搭載できるようSu34を改造することは、ロシア軍にとって「理に叶っている」と指摘した。

カウシャルはまた、Su34の改造によって多くのミグ31がキンジャールの母機としての役割から解放され、前線で迎撃機としての役割を果たすことができるようになるだろうと本誌に述べた。「ミグ31に搭載されている長距離レーダーやR37迎撃ミサイルは、ロシア軍にとって、ウクライナの航空機を封じ込めるための有用なツールであることが分かっている」と彼は言う。ミグ31のレーダーは巡航ミサイルを識別・撃退する機能を備えているとも言われているという。

「従って、今後ミグ31が航空機や巡航ミサイルによる攻撃に対する防御に用いられるケースが増えるかもしれない。とりわけクリミア駐留のロシア軍に対するウクライナからのミサイル攻撃の脅威がより深刻になれば、その可能性は高まるだろう」とカウシャルは主張した。

ロシアはキンジャールについて、音速の10倍の速さで飛ぶことができる「誰にも止められない」次世代兵器のひとつだと豪語してきた。だが西側の専門家の一部は、キンジャールを「極超音速」ミサイルだとするのは誇大表現だとし、キンジャールはロシアが主張しているほど無敵な兵器ではないと指摘している。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米東部4州の知事、洋上風力発電事業停止の撤回求める

ワールド

24年の羽田衝突事故、運輸安全委が異例の2回目経過

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体が技術供与 推論分野強

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏勝
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中