最新記事

BOOKS

殺人犯に「引き寄せられる」人がいる──妥協のない取材から浮かび上がる現実

2022年3月24日(木)18時15分
印南敦史(作家、書評家)

いじめ、性被害...自殺を考え、白石とやり取りした女性

小学校低学年の頃からいじめを受け、学校に行けなくなり、それを親に言うこともできず、中学に進学してからもいじめに悩まされたという女性。アルコールを飲んでは問題を起こす父親の暴力被害にも遭い、家庭に居場所がないと感じるようになる。

そんな折、Facebookで知り合った自称"30代の医師"を信頼して悩みを聞いてもらうも、実際に会って話をした際にレイプされることに。病院で心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、外出もできなくなってしまったため高校を中退。

さらには別の男性からも性被害を受け、そのことがきっかけとなって希死念慮をより深める。やがて自殺を考えるようになってTwitterで思いをつぶやいたところ、白石から返信があってやり取りをするようになったのだった。

これをきっかけに白石は、「一緒に死にますか?」と巧みに誘導していく。だが直美は、ギリギリのところで踏みとどまり難を逃れている。


二人のやりとりはカカオトークに移行する。このときの白石のアカウント名は《_》だった。
_ :色々つらそうなので死にますか?
直美:首吊りで2回失敗してるから不安でしかたがないです。
_ :結び方、緩衝材、高さ、薬、ちゃんと勉強すれば死ねます。
   痛いし、苦しい、未遂になると追っている(思っている)人は勉強してないから楽に死ぬ方法が分かっていないだけです。
   実際に吊ってみて苦しかったらやめていいので試しに吊ってみますか?
直美:あのー、本気で考えますか?
_ :本気です。安楽死出来るよう、勉強して、道具を揃えて私も吊りましたよ。
直美:未遂ですか?
_ :言葉に語弊がありました。薬を飲まずに、意識がちゃんと飛ぶか確かめました。
   私の方法をまとめました。薬を飲み、効いてきたら首に緩衝材を巻き縄をかけ、立ち姿勢もしくは正座姿勢で、血流が止まりやすい位置を探します。顎のラインに沿うようにかけると本当に痛みなく血流が止まります。後は貧血症状が出てきて目の前が暗くなり、ふらふらする状態から意識が飛び死ぬだけです。
   私が用意するので、責任持って安楽死させます。(194〜195ページより)

読んでいるだけでも嫌な気分になってくるが、結局のところ直美は返信をせず、実際に会うことをやめた。上記"30代の医師"の男のことが頭をよぎったからだった。またもや性暴力に遭う危険を想像したため、白石の被害者にならずに済んだのだ。

とはいえ当時を振り返った彼女は、著者に対してこうも話している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で2%超安 堅調な米経済指標受け

ワールド

米大統領選でトランプ氏支持、ブラックストーンCEO

ビジネス

米国株式市場=反発、ナスダック最高値 経済指標が追

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、利益確定で 経済指標堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリン・クラークを自身と重ねるレブロン「自分もその道を歩いた」

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 8

    テストステロン値が低いと早死にするリスクが高まる─…

  • 9

    日本を苦しめる「デジタル赤字」...問題解決のために…

  • 10

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中