最新記事

インドネシア

感染拡大のインドネシアは第2のインドの様相 医療システム限界、続々と倒れる医師たち

2021年7月16日(金)16時50分
青葉やまと

感染のまん延により、医療機関の運営自体にも危機が迫る。英ガーディアン紙が現地メディアの報道として伝えた情報によると、酸素が底をついたり、医療スタッフが感染により出勤できなくなったりといった事態が相次いでいる。これにより病棟の運営が不可能となり、ICUを一時的に閉鎖する医療機関が出始めている模様だ。ある病院では病棟前の庭をICUに転用するなど可能な限り受け入れを続けているが、必要な医薬がない状態が10日間も続いており、仮に入院できたとしても必要な治療を受けられない状態だ。

倒れる医療スタッフたち ワクチンに疑念も

過酷な状況のなか、前線で働く医療スタッフの負担は甚大だ。医師たちのなかからも、ほぼ毎週のように感染による死者が出ている。ジャカルタのある医師は『news.com.au』に対し、「一緒に働いている人が軒並み倒れていっている」と悲惨な状況を語る。

医師たちは2回のワクチン接種を受けているが、それでも突破感染が止まらない。英テレグラフ紙は、ジャワ島中部の病院において、医師たち15人が感染したと報じている。自身も感染したというある医師は同紙に対し、人手不足で医師たちは過労状態にあり、このような状態ではワクチンを打っていたとしても免疫力が十分に発揮されない、と説明している。

こうした体調の問題とは別に、ワクチン自体の効果も疑問視されている。6月には350人を超える医療関係者が新型コロナで死亡しており、インドネシア医師会はほぼ全員が中国シノバック社のワクチンを接種していたことを明らかにした。英ガーディアン紙は6月末、「インドネシアでのコロナ死でシノバック・ワクチンへの疑念が加速」と報じていた。さらに、インドネシアでシノバック製ワクチンの治験を主導してきた責任者が今月死亡しており、現地メディアは新型コロナが死因だったと報じている。

捉え方は割れており、現地保健省のスポークスマンは、医療関係者はウイルスの脅威にさらされる機会が多いために感染数が多くなっており、ワクチンの効果に問題はないとの見解を示している。一方、実質的に効果の薄い「水ワクチン」ではないかとの疑念が一部でささやかれはじめており、とくにデルタ株に対してはぜい弱だという可能性が指摘されている。

同様の指摘はインドネシア国外からも挙がっている。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、同じくシノバック製を採用するタイはすでに、医療関係者に対してファイザーやアストラゼネカ製などを追加接種する方針を固めたと報じている。

インドネシアのパンジャイタン調整相は今週、仮に最悪の状況に突入したならば、新規感染者数は現状を2万人以上上回り、1日あたり7万人に達するのではないかとの見通しを示した。当面は予断を許さない状況が続きそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中