最新記事

中国

中国でホッキョクグマ・ホテル開業も、劣悪な待遇に世界がバッシング

2021年3月22日(月)15時50分
青葉やまと

ガーディアンも本件を批判的に報じている。同紙の報道によると、中国国内からもホテルのコンセプトに疑問の声が出ているようだ。中国のSNSユーザーたちは、「衆人環視のホッキョクグマの監獄......。我々は動物虐待について学んだはずでは?」などと首を傾げる。中国では以前にも、野生動物を食べる習慣がコロナの起源になった可能性が疑われるとして問題になり、当局が規制を強化していた。食習慣は見直されたものの、動物愛護の観点では法整備が追いついていない。

中国以外では? 充実の飼育環境

もっともPETAは通常の動物園にも反対するなど、動物愛護に関してかなり積極的な立場をとっている。そのため、同団体の意見が必ずしも海外の代表的な反応というわけではない。オーストラリアにもイギリスにも、ホッキョクグマを飼育・展示している動物園は存在する。ただしこれらの園では、アニマル・ウェルフェア(動物の福祉)という観点で細心の注意を払っている。

イギリスのヨークシャー野生動物公園は、4頭のオスのホッキョクグマのために、10エーカー(およそ200メートル四方)という専用の広大なスペースを用意している。来園者の目を楽しませることが第一目的ではなく、「ポーラーベア・プロジェクト」と題し、動物公園を挙げて種の保護・周知活動を推進してきた。飼育環境も工夫し、草地や水辺など自然環境を再現したうえで、太陽の下で自由に活動できるようになっている。

オーストラリアで唯一ホッキョクグマを飼育するシーワールド・アニマルアドベンチャーでは、屋外に比較的広い遊泳スペースを設けている。生態を学ぶガイドツアーを用意しており、こちらも娯楽だけでなく教育目的を担う。

日本の動物園では海外ほど広大なスペースを用意できない場合も多いが、多くは屋外に十分な運動スペースを用意している。また、大阪・天王寺動物園と札幌・円山動物園では繁殖活動に成功し、種を絶滅から守ることに貢献している。

動物園自体の是非に議論は尽きないが、少なくとも世界の多くの動物園では確固とした目的の下、ホッキョクグマを慎重に扱っている。これに対し、単純な見世物として劣悪な待遇を行なってしまった点で中国のホテルは批判の的となった。

過去には2016年にも、中国南部・広東省のショッピング・モールがホッキョクグマを不適切な環境で展示し問題になっている。夏場の高温にさらされ、モールを訪れた現地の人々が懸念を示していた。チャイナ・デイリー紙は当時、展示スペース内で独り虚空に吠えるクマの姿を掲載し、「世界で最も悲しいホッキョクグマ」だと報じている。

動物軽視の傾向は続く。2020年10月には中国中部・河南省の物流センターで、5000匹以上に及ぶ犬や猫などが段ボール箱に入った状態で死亡しているのが発見された。ペットを繁殖し、ネット上で格安で販売する商売が背後にあるものと見られる。宅配便で出荷され、水も飲めずに1週間ほど輸送されていたようだ。米ニューヨーク・ポスト紙などが報じた。遺体は腐敗が進み、物流センターには強烈な悪臭が漂っていたという。

ホッキョクグマ・ホテルについてもここまで劣悪でないにしろ、飼育環境に注意が払われているか懸念が残る。ホテル側としては売りであるクマを展示スペースに長く押し込めたいところだろうが、衰弱につながるような展示方法については改善が望まれる。

China opens polar bear hotel: polar bears stuck in a stuck in small area to entertainment guests

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ノジマ、10月10日を基準日に1対3の株式分割を実

ワールド

ベトナム、水産物輸出禁止の再考を米に要請

ワールド

イスラエル軍、最大都市ガザ市占領へ地上攻撃開始=ア

ワールド

小林氏が総裁選へ正式出馬表明、時限的定率減税や太陽
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中