最新記事

動物

サルの社会から学ぶ、他者との向き合い方

2020年12月22日(火)17時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

言葉がないゴリラはその瞬間がすべてだ LuckyBusiness/iStock.

<人間とゴリラの最大の違いは言葉を話すかどうかだが、言葉を話さないからこそゴリラは表情やしぐさで相手に正直な気持ちを伝える>

2020年は、コロナウイルスの流行により、3密、ソーシャル・ディスタンス、リモートワークの普及など、人間関係に大きな変化があった年となった。他者との間に距離ができたことを「居心地がいい」と感じた人もいれば、「寂しい」と感じた人もいただろう。

人間は、どうしても他者との関係にストレスを抱えがちだ。そうはいっても、1人で生きていくこともできない。どうすれば、他者と心地いい関係をつくっていくことができるのだろうか。

新刊恋するサル 類人猿の社会で愛情について考えた(CCCメディアハウス)では、ゴリラやチンパンジーなどの類人猿が、コミュニティーのなかでどうやって他者と心地よく共存しているのか。その様子を紹介している。著者は、上野動物園などで37年間ゴリラやチンパンジーなどの大型類人猿の飼育員を務め、現在も多方面にわたって、類人猿の保護、啓蒙活動に携わる黒鳥英俊氏だ。

黒鳥氏によると、男女の愛、親子の愛など、彼らが他者に見せる深い愛情には見習いたいことがたくさんあるという。

寂しがり屋のブルブルは、心の病

見た目は迫力があるゴリラだが、実はとても繊細な心を持つ生き物だと黒鳥氏は言う。

上野動物園で飼育されていたゴリラのブルブル(オス)は寂しがり屋だ。幼いころのブルブルは、他のゴリラをいじめてしまうため、飼育員がブルブルを別の部屋に入れることにした。そうすると、「みんなと一緒にいたい!」とでも言うように、泣き続けていたそうだ。

やがて、大人になったブルブルは、ムブル(メス)と2頭で暮らすようになる。しかし、ムブルの痛風が悪化し、長期入院を繰り返すようになると、ブルブルは深く傷ついてしまったようだ。1頭だけになってしまったブルブルは、糞を投げたり、自分の体毛を抜いたりと、ストレスを受けた時に見られる行動をするようになった。

そんなブルブルのために、19インチのカラーテレビが設置されることになった。ドイツのフランクフルト動物園にも、自分の毛をむしるようになったゴリラがいた。その治療としてテレビを見せたところ、効果をあげたというのだ。そこでフランクフルト動物園に連絡をとって詳しく教えてもらい、上野動物園でもテレビを導入したのだ。

ブルブルに見せた番組は、「野生の驚異シリーズ」と「野生の王国シリーズ」だ。世界各地の野生動物の生態を見せる番組である。

すると、ブルブルは想像以上に画面のなかの動物にしばらく関心を示した、と当時の中川飼育課長(のちの園長)は言っていた。チンパンジーやライオンがクローズアップされると、画面に手を伸ばしたり、大声を上げるなどの反応を示した。

やがて、ブルブルは自分の毛を抜くのをやめ、元どおり姿に戻ったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中