日本人が知らない、アメリカ黒人社会がいま望んでいること
WHERE DO WE GO FROM HERE?
白人議員が嫌うある言葉
そもそも、警察が住民の精神疾患や学校のパトロール、麻薬や飲酒の問題、暴力を伴わない争いなどに首を突っ込むのは間違いだという意見もある。警察に割り当てられる多額の資金(自治体の予算で最大の支出項目となっている場合もある)を、もっと別の地域サービスに振り向けるべきだという主張である。
だが、いくら活動家が今こそ大改革の時だ、アメリカの悲惨な歴史がいかにこの国の不平等を生み出しているかを反省すべきだ、と訴えても、政治家の反応は鈍い。
共和党・民主党の有力議員が現在提示している法案は、法制化された場合は間違いなく警察の管理と透明性の強化につながるだろうが、活動家が唱えている警察の大改革には程遠い内容だ。
共和党唯一の黒人上院議員で、党内の警察改革の議論を主導しているティム・スコットは、フロイドが警官に首を膝で押さえ込まれて死んでいく動画に「アメリカの精神の根幹は破壊された」と感じ、「本当にもうたくさんだ」と思った。
数年前までは警察改革を求めるいかなる呼び掛けも警察官全員に対する攻撃と見なしてきた共和党にとっては、黒人のスコットに一定の権限を与えたこと自体が大きな進歩だろう。それでも、スコットは言葉を慎重に選んで話さねばならない。
共和党の白人議員たちは今も、アメリカの刑事司法は「構造的に」黒人に不利にできているという考えを頭から拒絶する。そのためスコットは構造的な不公平を裏付ける自身の体験をいくつも語りながら、「構造的」という言葉だけは使わなかった。
警官に交通違反の切符を切られるのは自分にとっても日常茶飯事だ、とスコットは言った。そして「黒人のくせに車を運転している」から警官の目につく、それ以外の理由は考えられないと付け加えた。
議会に初登院して以来、議事堂の敷地内で警官に呼び止められたことは少なくとも4度。議員になって数年後、貧困地区に住む祖父を訪ねる途中で警察に車を止められたこともある。たちまち、少なくとも4人の警官に取り囲まれたという。
「不審者扱いされて魂を傷つけられる。自分のことを卑しい存在と受け止め、無力感といら立ちを覚える」とスコットから聞いて、それこそまさに「構造的」な差別ではないかと尋ねると、こう切り返された。「あなた方のように言葉の定義をめぐって論争する贅沢は、私にはない」
スコットと他の議員たちの間で意見が一致するのは、たとえどんな法案を可決できたとしても問題の根絶には遠く及ばないという点のみだ。「憎悪の顕在化を食い止めることを目指しているが、それが見えてこない」とスコットは言う。
「末端の部分をいじくり回しているだけだ」と言うジョナサン・スミスは、オバマ政権時代に司法省高官として公民権問題を担当し、マイケル・ブラウン射殺に関してファーガソン警察署の調査を取り仕切った。「みんな何かをしたいと思うから、いわば低い枝になる果実に手を伸ばす」とスミスは言う。しかし「それでは意味のある解決にならない。何かをしたという気分になるだけだ」。