最新記事

新型コロナウイルス

感染第1波で医療崩壊の悪夢を見たアメリカは、第2波を乗り切れるのか

“We Didn’t Know What We Know Now”

2020年7月22日(水)19時00分
アダム・ピョーレ

magw200722_coronavirus2.jpg

イタリアの病院で治療を受ける重症患者 MARCO DI LAURO/GETTY IMAGES

ただし油断はできない。感染症の専門家によると、この数字がどこまで実態を反映しているかは定かでない。ウイルス検査の数が増えれば無症状や軽症の感染者の割合が増えるから、それだけ致死率は押し下げられる。

最近の感染者には若い人が多いから、慢性的な持病のせいで症状が悪化し、死に至る人の割合も下がる。しかも感染確認から死亡までには数週間の時間が経過する。つまり今は減っているように見えても、数週間後に致死率が急増する可能性は排除できない。先は見えない。だが現場の医師たちは確信している。この半年の経験で、少しは治療のめどが立ってきたと。

アメリカにおける感染第1波の震源地となったニューヨーク州の場合はどうか。ニューヨーク大学ランゴン医療センターが対応した患者の累積数は2万4000人超。医療責任者のフリッツ・フランソワによれば、致死率は3月初旬時点で18〜20%だったが、直近では10〜12%に低下している。

地域と国境を越えた連携

テキサス州ヒューストンのメソジスト病院でも、ICUでの治療を必要とする重症者の割合は推定で当初の50%から30%に減少。致死率も10%から6%に下がった。いずれも治療に新しい知見を取り入れた結果とみられる。

感染第2波で最も懸念されるのは、一部の若者の無責任な行動だ。彼らの感染は自業自得だが、彼らを通じて(重症化しやすい)高齢者への感染が増えれば一大事。日常生活でのマスク着用に抵抗する人が多いのも心配だ。

しかし明るい材料もある。現場の医師たちが、地域も国境も越えて連携している事実だ。アメリカで感染第1号が見つかったのは西海岸だが、感染第1波に直撃されたのは東海岸のニューヨーク州。医師たちは電話や電子メールで緊密に情報を交換していた。

欧州の医師からは、最前線の医療スタッフに感染が拡大している、早急に予防策を講じるべきだという警告が届いた。これを受けて、ニューヨーク大学病院では新型コロナ対応の専用エリアを確保し、ほかの患者やスタッフから完全に隔離する一方、新型コロナ対応のスタッフには防護服の着用などを義務付けた。症状の重い患者を受け入れ、患者を人工的な昏睡状態に置く必要のある侵襲的な、つまり患者にとっても負担の大きい人工呼吸器使用の可否を判断するのは、こうした専門スタッフだった。

医療従事者の抗体保有率

一方で、患者の容体によっては身体的負担の小さい措置(CPAP=持続陽圧呼吸療法など)を選択することもできた。これだとウイルスのエアロゾル感染を招く恐れがあるが、治療エリアの隔離と医療スタッフの安全が確保されていれば、それも選択肢になり得た。

こうして受け入れ患者の数が増え、治療データが蓄積されるにつれ、現場スタッフにはそれだけ治療の選択肢が増えた。結果、人工呼吸器が必要なほど重症化しない例が増え、より負担の少ない呼吸補助装置を選択できるようになり、治療効果の全体的な向上にもつながった。

【関連記事】日本で医療崩壊は起きるのか? 欧米の事例とデータに基づき緊急提言
【関連記事】「恐怖の未来が見えた」NYの医師「医療崩壊」前夜を記す日記

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、金融データをチャットGPTに統合へ AI

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、日銀利上げ見通しで一

ワールド

香港当局、高層住宅火災受け防護ネット全面撤去へ

ワールド

インドネシア、採掘規則違反企業を処分へ 洪水で死者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中