最新記事

中国外交

対北制裁決議&ASEAN外相会議に見る中国の戦略

中国は北朝鮮が軍事大国化することを非常に警戒しているので、なんとしても北の核・ミサイル開発は阻止したい。それは1964年に毛沢東が金日成(キム・イルソン)の協力依頼を断ってから、今日まで変わっていない。ほどほどの国力の北朝鮮が緩衝地帯として存在してくれていれば、それがベストなのである。南北統一もしてほしくない(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』)。

マニラにおける米中外相会談

王毅外相はマニラで十数ヵ国の外相との会談をこなしている。それをすべて述べるのは長くなり過ぎるので、米中外相会談に関してのみ、最後に軽く触れておきたい。

中国の環球時報が中央テレビ局CCTVの解説として報道しているが、王毅外相は相変わらずのティラーソン米国務長官に対する上から目線で会談した。リンク先がつながらない場合は、お許しいただきたい。CCTVで観たその表情は、あたかも「ティラーソンよ、あなたは外交の素人ですよね」と言わんばかりだった。

その会談ではトランプ大統領の中国訪問を取り付けることが大きなテーマになり、北朝鮮問題に関しては「中国は北朝鮮の核・ミサイル開発には絶対に反対だが、双暫停が先決だ。制裁の先には中国が主張してきた対話路線しかない」といった趣旨のことを、誇らしげに話している。ティラーソンは、つい先日、「(条件が揃えば)北朝鮮と対話を」と言ったばかりだ。

王毅は「だからね!」と勝ち誇っている。

ティラーソンはまた、最初の訪中の際に「今後50年間の中米関係未来図」を提唱してしまった。「一つの中国」懐疑論をトランプが提唱して「いざとなったら、この武器を使うぞ」と中国を脅してビッグ・ディール(大口取引)に使おうとしていたのに、今では中国が「分かっているよね?"一つの中国"原則に疑義を挟むようなことをすれば、どうなるかってことは」と、これもまた上から目線の、ほぼ脅迫に近い姿勢なのである。

トランプ大統領の訪中が先か訪日が先か。

中国は今、その競争をしている。

今般のASEAN外相拡大会議は、中国の根回し戦略に嵌ってしまった格好だ。

中国に図に乗らせないために、日本はもっと中国を深く読み込み、「勝つための大局的戦略」を立てなければならない。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中