最新記事

中国外交

対北制裁決議&ASEAN外相会議に見る中国の戦略

2017年8月8日(火)16時35分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国は北朝鮮が軍事大国化することを非常に警戒しているので、なんとしても北の核・ミサイル開発は阻止したい。それは1964年に毛沢東が金日成(キム・イルソン)の協力依頼を断ってから、今日まで変わっていない。ほどほどの国力の北朝鮮が緩衝地帯として存在してくれていれば、それがベストなのである。南北統一もしてほしくない(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』)。

マニラにおける米中外相会談

王毅外相はマニラで十数ヵ国の外相との会談をこなしている。それをすべて述べるのは長くなり過ぎるので、米中外相会談に関してのみ、最後に軽く触れておきたい。

中国の環球時報が中央テレビ局CCTVの解説として報道しているが、王毅外相は相変わらずのティラーソン米国務長官に対する上から目線で会談した。リンク先がつながらない場合は、お許しいただきたい。CCTVで観たその表情は、あたかも「ティラーソンよ、あなたは外交の素人ですよね」と言わんばかりだった。

その会談ではトランプ大統領の中国訪問を取り付けることが大きなテーマになり、北朝鮮問題に関しては「中国は北朝鮮の核・ミサイル開発には絶対に反対だが、双暫停が先決だ。制裁の先には中国が主張してきた対話路線しかない」といった趣旨のことを、誇らしげに話している。ティラーソンは、つい先日、「(条件が揃えば)北朝鮮と対話を」と言ったばかりだ。

王毅は「だからね!」と勝ち誇っている。

ティラーソンはまた、最初の訪中の際に「今後50年間の中米関係未来図」を提唱してしまった。「一つの中国」懐疑論をトランプが提唱して「いざとなったら、この武器を使うぞ」と中国を脅してビッグ・ディール(大口取引)に使おうとしていたのに、今では中国が「分かっているよね?"一つの中国"原則に疑義を挟むようなことをすれば、どうなるかってことは」と、これもまた上から目線の、ほぼ脅迫に近い姿勢なのである。

トランプ大統領の訪中が先か訪日が先か。

中国は今、その競争をしている。

今般のASEAN外相拡大会議は、中国の根回し戦略に嵌ってしまった格好だ。

中国に図に乗らせないために、日本はもっと中国を深く読み込み、「勝つための大局的戦略」を立てなければならない。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日経5万円で海外マネー流入加速の思惑、グ

ワールド

EU大統領、中国首相と会談 鉱物輸出規制に懸念表明

ビジネス

東証、ニデックを特別注意銘柄に28日指定 内部管理

ビジネス

HSBC、第3四半期に引当金11億ドル計上へ マド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中