最新記事

日本経済

アベノミクスは新産業生まず 危機発生ならヘリマネの懸念も

2017年7月12日(水)17時14分

「今は、金融緩和で資産バブルを起し、円安による株高で内部留保を増やして利益を水増ししている状況だ」

「そこが、何らかのショックで、または、ショックがなくても、はげ落ちてきたときに、筋肉や臓器も衰えているのに、(金融緩和によって)血液(マネー)だけどんどん流しても効果が上がらない。それは当然のことだ」

──政府は、どのような政策を選択すると予想するか。

「日銀はYCC(イールドカーブコントロール)を量的緩和中心のQQEに戻し、政府は財政を拡大させるだろう。しかし、効果は限定的ではないか」

「いずれ日銀の保有国債を永久債に換え、金利をゼロにして、利払いを凍結することも検討されるだろう。これは民間企業で言えば、債務を集めた旧会社と借金なしの新会社に分離する新旧分離と同じ発想だ。ただ、新会社が黒字になればいいが、今の日本経済では、財政赤字が増大したままになり、問題の根本的解決にならない」

「アベノミクスを実施している間に、新しい産業と雇用を生み出す努力をすべきだったが、実現していない。今のままで財政拡張を続けても、ヘリコプターマネーのように最終的にはなってしまう」

「18世紀の英国はコンソル公債を増発して戦費を調達したが、その後は、産業革命と植民地の拡張でシティが金融の中心になり、成長を遂げることができた。しかし、日本は成長の見通しが立たない中でヘリマネをやってしまうと、後々、立ち上がれなくなる」

──どのような政策的選択肢があるのか。

「マクロ政策が限界に来ているなか、潜在成長率を上げながらショックに強い経済をつくるために、産業構造を大胆に変える政策が必要だ」

「生産年齢人口の減少がすさまじい勢いで進んでいる。産業のすそ野がむしばまれ、空き家の激増や農業人口の高齢化はその典型だ」

「地域で、教育、農業、福祉、エネルギー分野など基盤産業を厚くしなければならない。一番の起爆剤はエネルギーの転換だろう。エネルギーが変われば、耐久消費財やインフラも変わる。再生エネルギーなどにも重点を置くべきで、いつまでも原発にしがみつくべきではない」

「特許権をオープンに使える制度をつくり、高い戦略性を持った産業戦略を練っていくべきだ。規制緩和などの素朴な議論ではなく、日本の弱点を克服するような大胆な戦略が必要だ」

──人口減少を和らげ、社会システムを維持するには、どうしたらいいのか。

「徐々に方向転換するしかない。子どもが生まれたら1人当たり100万円補助するなどのわかりやすい目標を掲げ、人口減に歯止めをかける。企業が390兆円も利益剰余金を積み上げるのも、市場縮小による『食い合い』への恐怖心がある」

「日本の企業文化には、モノをつくる人を大切にするというのがあった。そうした文化を復権できるような戦略が必要だ。そのことが、企業の国際競争力を取り戻すことにつながると思う」

(森佳子 編集:田巻一彦)

[東京 12日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中