最新記事

食の安全

カリッと香ばしいフライドポテトが消える? EUとベルギーのポテト論争 

2017年7月31日(月)17時45分
モーゲンスタン陽子

Yves Herman-REUTERS

<発がん性物質「アクリルアミド」の減少を目指す規約の導入が欧州委員会で合意。これにより、ベルギーで国民的料理のフライドポテトが消える、と大反発が起こった>

7月19日、欧州委員会は食の安全に関し、食品に含まれる発がん性物質アクリルアミドの減少を目指す新規約を導入することで合意した

アクリルアミドの危険性は2002年から報告されており、調査が進められてきた。EU圏民の食の安全と健康にとっての重要なステップとして歓迎される新規約導入だが、別の意味で喜んでいる国が1つある。それはフライドポテトの発祥地と言われるベルギーだ。

ベルギー文化に対する侮辱?

合意を受けて翌日、ベルギーのウィリー・ボルシュ農相が「ベルギーのフライは救われた! ヨーロッパがベルギーの意見を聞いた!」とよろこびのツイートをし、同国シャルル・ミシェル首相がこれをリツイートしたとロイターが報じている。

実は過去数週間、ベルギーではとある論争が巻き起こっていた。欧州委員会はアクリルアミドを削減する調理方法として、ベルギーの国民的料理であるフライドポテトの伝統的な調理方法を変えるよう提案したのだが、これが政治家をはじめベルギー国民の神経を逆なでしてしまった。

欧州委員会のプレスリリースによると、アクリルアミドは高温での調理でアミノ酸の一種であるアスパラギンと糖類が反応することで生成され、特にジャガイモ製品、シリアル製品、コーヒーなどで顕著だという。

伝統的なベルギーのフライドポテトは、ピンチェという品種のジャガイモを熟練の職人が手作業でカット、そして生のまま馬か牛の脂で二度揚げされる。これによって、外はカリカリ、中はしっとりという独特の食感が生まれるという。

ところが、この方法によりアクリルアミドがより多く生成されるという報告があり、欧州委員会はジャガイモを一度湯通し・下茹でしてから揚げる方法に変えるよう提案。アクリルアミドの生成が妨げられるというのが理由だが、そんなことをしては伝統の味が損なわれるとして大反発が起こった。

政治家たちが憤慨

これは単なる「提案」にすぎないという欧州委員会の度重なる説明にもかかわらず、地元メディアが「ベルジャン・フライ禁止」の可能性を論じ、政治家たちもこれに過剰反応。ベン・ウェイツ観光相はEUの官僚たちがベルギーの「豊かな美食の伝統」を破壊しようと企んでいると非難した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中