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アマゾン、ホールフーズ買収の狙いはデータ

2017年6月26日(月)17時00分
ケビン・メイニー

ウォールマートの強みは同時に、ウォルマートが手に入れ損なったことをも示している。ウォルマートは、店舗で何が売れたかを知ることで成功した。個々の客が何を買ったかではない。それが、1994年に創業したアマゾンの強みだ。創業者のジェフ・ベゾスは、まだ萌芽期のインターネットを活用しようとしていた。アマゾンはコンピューターを通じて顧客に直接商品を販売するので、すべてのやりとりが記録に残る。アマゾンは、個々の顧客がどんな商品を見て何を買ったかを知ることができるのだ。

1990年代になるとアマゾンは、それまでに蓄積してきた顧客データをもとに、個々の顧客に商品を推薦する方法を模索し始めた。初期の人工知能(AI)の能力にもきづいていた。「ベゾスは、これが名門他社にはないアマゾンの圧倒的強みになる」と言った、とアマゾンについての著書があるジャーナリスト、ブラッド・ストーンは言う。「かつての名門小売業には、自らの顧客を個人ベースで知る機会がなかった」

アマゾンはAI時代の小売業だ。アマゾンがやることはすべてデータを吸収し、それによってAIが、いかに顧客を絞り込むか、それぞれの顧客に合った商品を提案できるかを学習する。アマゾンには今や3億人のユーザーがいて、その約20%は最低週1回はアマゾンから買い物をしている。

老舗小売大手に淘汰の波

誰より自分の店舗を知っていたウォルマートに、誰より顧客を知っているアマゾンが勝ったのだ。ウォルマートは年間4820億ドルの売り上げに対し時価総額は約2270億ドル。アマゾンは1360億ドルの売り上げに対し時価総額は4720憶ドル。投資家がアマゾンにはまだまだ成長余地があると見ていることがわかる。

ホールフーズ買収もたぶん、AIに何かを学ばせることと関係があるはずだ。アマゾンがホールフーズからケールを好んで食べるような顧客層の属性を学ぶか、アマゾンのAIがホールフーズの品揃えをローカルの消費者に魅力あるものにする方法を教えるか、あるいはその両方だ。

【参考記事】 >アマゾンついにリアル市場へ 日本での提携先を大胆予想 !

ウォルマートが不利なのはAIだけではない。ウォルマートは世界で5000近い店舗をもち200万人の従業員を雇用している。アマゾンがロボット化した配送センターで34万1000人の従業員しか雇っていないのと比べると驚くべき高コスト構造だ。

AIの時代はまだ始まったばかりだ。ウォルマートはいずれ、破綻寸前のシアーズのように過去の会社になるだろう。ウォルマートは偉大な会社だ。シアーズもそうだった。だがテクノロジーは容赦なく変遷する。アマゾンもいずれ同じ運命をたどるのだろうが、それはまだ少し先のことだ。

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