最新記事

シリア情勢

シリアで起きていることは、ますます勧善懲悪で説明できない

2017年2月1日(水)18時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)

二つのアル=カーイダ系組織を軸に離合集散する反体制派

対立はこれにとどまらなかった。1月24日、今度はシャーム・ファトフ戦線本体が、ザーウィヤ山一帯を含むイドリブ県北部とアレッポ県西部(およびアレッポ市西部郊外)で、ムジャーヒディーン軍、シャームの鷹旅団、シャーム戦線の拠点を制圧していった。窮地に立たされた3組織は、シャーム自由人イスラーム運動に支援を求め、「忠誠」(バイア)を表明した。また、イスラーム軍(イドリブ地区)、シャーム戦線(西アレッポ地区)、「命じられるまま正しく進め」連合、シャーム革命家大隊も、シャーム・ファトフ戦線の侵攻から身をまもるべく「忠誠」を表明し、シャーム自由人イスラーム運動は26日、これらの組織を吸収するとの声明を出したのである。

aoyama0201c.jpg

シャーム・ファトフ戦線もこれに対抗し、「穏健な反体制派」として知られていたヌールッディーン・ザンキー運動、ハック旅団、アンサールッディーン戦線、スンナ軍と1月28日に共同声明を出し、シャーム解放委員会という新組織として完全統合すると発表、力によって反体制派の統合を進めるとの意思を表明した。指導者には、シャーム自由人イスラーム運動の元司令官のアブー・ハーシム・ジャービルが就任し、ファトフ軍(シャーム・ファトフ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などからなる軍事連合体)を実質統括してきたサウジアラビア人説教師のアブドゥッラー・ムハイスィーらも新組織に合流した。

aoyama0201d.jpg

反体制派内部の再編がどのように決着するのかはきわめて不透明だ。だが、一連の動きから見えてくるのは、和平交渉の当事者となるべき「正当な反体制派」と「テロとの戦い」の標的となる「テロ組織」の峻別が、これまで以上に実現性を欠いた「ミッション・インポシブル」となっているという現実である。二つのアル=カーイダ系組織を軸に離合集散する反体制派は、とらえどころのない存在となっており、和平協議の当事者としての資質さえも失おうとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エネルギー省、76億ドルの資金支援撤回 水素ハブ

ビジネス

消費者態度指数9月は2カ月連続改善、生鮮食品価格の

ビジネス

カナダ製造業PMI、9月は47.7 8カ月連続で節

ワールド

EU、鉄鋼輸入枠半減し関税50%に引き上げへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」してしまったインコの動画にSNSは「爆笑の嵐」
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 8
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 9
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 10
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かっ…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 4
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中