最新記事

韓国

日韓「慰安婦問題」合意が生き延びている理由

2016年6月22日(水)16時10分
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト)

Kim Kyung Hoon-REUTERS

<今年4月の総選挙で「反日」的傾向の強い左派勢力が勝利したが、なぜか左派は日韓合意に対して目立った反対姿勢を示さない。日韓合意は韓国の有権者からは人気がないが、それでもこのまま左派が行動を起こさなければ、国民から暗黙の承認を得られたことになるかもしれない>

 日本の安倍晋三首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が、日韓関係をこじらせてきた慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的」に解決することで合意したのは昨年末のこと。元慰安婦を支援するために韓国が設立する財団に、日本政府は10億円を支払う。一方の韓国政府は今後、この問題を蒸し返さないという内容だった。

 これを問題解決への大きな一歩と捉えた向きは多かったが、現実には何も前進していない。朴は求心力を失い、安倍には積極姿勢が見られない。韓国では、今年4月の総選挙で歴史的に慰安婦を擁護してきた左派が議会で第1党になり、合意の実現が疑問視されている。しかし、それでも合意は生き続けている。

 背景には北朝鮮の存在がある。北朝鮮と韓国の関係は現在、10年に北朝鮮の潜水艦が発射した魚雷が韓国の哨戒艦「天安」を爆沈して以来、最悪の状態にある。日韓合意から数カ月の間に、北朝鮮は4回目の核実験と複数のミサイル発射を行い、韓国との協力事業である開城工業団地を閉鎖した。

 日韓はこうした安全保障上の共通の脅威を前に、慰安婦問題のような急を要さない課題を後回しにしたようだ。朴政権は、慰安婦問題に関する議論を深める目的で13年と15年に2つの委員会を設置したが、昨年末が提出期限だった報告書の作成を突然棚上げし、委員会の活動も停止させた。

【参考記事】韓国総選挙の惨敗と朴槿恵外交の行方

 いずれにせよ、主要な合意内容はまだ履行されていない。おそらく、韓国国内で合意が好意的に受け入れられていないことが関係しているだろう。

左派の沈黙は暗黙の承認

 元慰安婦支援のための財団はまだ設立されておらず、先月末にようやく設立準備委員会が発足したところだ。そのため、日本政府が10億円を拠出するための枠組みもまだ決まっていない。

 合意ではまた、ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像について、韓国政府が解決の努力をすると明記されたが、いまだ撤去されていない。撤去されない場合、日本政府が財団への拠出を行わない可能性もある。

 総選挙での左派の勝利で、慰安婦問題が再び取り上げられる可能性は高まった。左派は歴史的に日本に対して猜疑心を抱き、反日感情をむき出しにする傾向にある。

 さらに左派の中には、韓国の最大の敵は北朝鮮ではなく日本だと言う人たちもいる。慰安婦問題は、日本によって植民地支配されていた1910年から45年に韓国人が味わった苦難を訴える「合言葉」となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、数日内にドイツを提訴へ ガス代金の賦課金巡

ワールド

日米との関係強化は「主権国家の選択」、フィリピンが

ビジネス

韓国ウォン上昇、当局者が過度な変動けん制

ビジネス

G7声明、日本の主張も踏まえ為替のコミット再確認=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中