最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

サンダースが敗北を認めない民主党の異常事態

2016年5月19日(木)18時20分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 もちろん、99%は非現実的と言える。だが、サンダース陣営は、こうした可能性を信じているからこそ、今でも選挙戦を継続している。同時に資金も集まってきているので、カリフォルニアまで完走する姿勢に揺るぎはない。

 サンダース陣営は、どうして「敗北を認めないのか?」という問いに対して、「自分たちの方がトランプとの決戦では有利」だと主張しているが、実際に「1対1の本選」についての世論調査をすれば、トランプと対決した場合、ヒラリーよりサンダースの方が勝利の可能性は高くなるというデータが出ている。こうしたデータを根拠に、サンダースは「本当に勝てる候補は自分だ」と、自信満々でいる。

 そればかりか、「ガチンコ党大会」に備えての駆け引きもスタートしている。例えば先週14日には、ネバダ州で「州の党大会」が開かれ、実際に代議員の選出が行われた。党の伝統的なルールに従って、予備選結果に基づいて代議員が割り振られたのだが、つめかけたサンダース支持者は結果が不満だとして、椅子を投げるなどの暴力行為に及んだ。

 サンダース自身は、そのような暴力行為をいましめているが、予備選の選出ルールが「エスタブリッシュメントに有利になっている」ことへの怒りは、支持者の間には渦巻いており、党の幹部に対して「脅迫メール」が送られる事件も起きている。

【参考記事】米共和党、トランプ降ろしの最終兵器

 実は民主党の歴史上では、党大会が怒号渦巻く混乱状態に陥ったケースもある。1968年の党大会がまさにそうだ。当時の民主党は、現職のジョンソン大統領が再選立候補を断念し、さらには予備選でトップを独走していたロバート・ケネディ上院議員が暗殺され、反戦派のマッカーシー議員が有力視されていたが、決め手を欠いていた。

 そこで、8月末に開かれた党大会で、党の長老などが工作して現職副大統領のヒューバート・ハンフリーが大統領候補に選出された。しかしこのハンフリー候補は、予備選にはまったく出ていない「白紙」からの候補指名であり、しかも反戦派には受け入れ難い人選だった。

 このために、シカゴは混乱状態となって、警察とデモ隊が激しく衝突する「荒れる党大会」になった。こうした党の混乱は、全国レベルでは民主党のイメージダウンに直結し、結果的に共和党のニクソン大統領が勝利する一因になったとされている。

 要するに党大会が混乱すれば「敵を利する」のは歴史的な教訓なのだ。だが、それでもサンダース陣営にはブレーキはかからない。トランプが指名確実となった共和党だけでなく、民主党の側も異常事態に陥っている。
ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中