最新記事

インタビュー

『オマールの壁』主演アダム・バクリに聞く

ようやく日本公開された話題作が伝える、パレスチナの苦悩と悲劇と閉塞感

2016年4月19日(火)17時40分
大橋 希(本誌記者)

不当な暴行 イスラエル兵から侮辱的な扱いを受けたオマールは、襲撃作戦の決行をタレクとアムジャドにもちかける

 さまざまな国際問題の中でも、長らく解決できず、多くの犠牲者を生み、中東の不安定化の要素にもなっているパレスチナとイスラエルの紛争――。和平交渉が進むかと思えば中断し、なかなか解決の糸口が見えない。

 和平を阻む大きな要因であり、国際的にも非難されているのがイスラエルによる占領地への入植活動と分離壁の建設だ。「パレスチナ人による自爆テロを防ぐため」とイスラエル側が主張する分離壁だが、大半はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸とイスラエルの境界(グリーンライン)ではなく、パレスチナ内に食い込む形で建てられている。建設中止・撤去を求める国連決議や国際司法裁判所の勧告も、イスラエルは無視し続けている。

 そんな分離壁が横断するヨルダン川西岸を舞台にした『オマールの壁』が日本公開中だ。監督は、05年『パラダイス・ナウ』でも知られるハニ・アブアサド。13年のカンヌ国際映画祭では「ある視点部門」で審査員賞を受賞、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされるなど話題を呼んだ作品で、待ちに待った日本公開といえるだろう。

【参考記事】少女「テロリスト」を蜂の巣にする狂気のイスラエル

 主人公オマールはイスラエル軍の監視を避けながら分離壁をよじ登っては、向こう側に住む親友のタレクやアムジャド、そして密かに恋愛関係にあるナディア(タレクの妹)に会いに行っていた。男3人はある日、イスラエル軍襲撃作戦を実行し、オマールはイスラエル秘密警察に拘束される。そこからオマールの苦悩が始まるのだが、観客は愛と友情、信頼という映画のテーマに常に試されるような感覚に陥る。

 長編デビュー作となる本作で、オマールを演じたアダム・バクリ(27)はイスラエル生まれのパレスチナ人。現在ニューヨークを拠点に活動中だ。分離壁に触れるほど近づいたのは、この映画の撮影時が初めてだったというバクリに話を聞いた。

――アブアサド監督は「これは戦争についてではなく、愛についての物語だ」と語っている。あなたはどのように作品を捉えた?

 この映画では、オマールを突き動かしているものはナディアの存在。彼の行動はすべてナディアが元になっている。監督がラブストーリーと言うのはまさにそうだと思う。ただし非常に特殊な状況、つまり占領下にある人たちのラブストーリーだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中