最新記事

回顧

【再録】昭和天皇インタビューを私はいかにして実現したか

ニューズウィーク元東京支局長が2006年に寄稿した、「根回し」を駆使して勝ち取った単独インタビューの秘話

2016年3月23日(水)15時51分
バーナード・クリッシャー(元東京支局長)

この号に掲載 1989年1月に昭和天皇が崩御すると、本誌は臨時増刊号を発行。その中で、1975年9月29日号の英語版ニューズウィークに掲載された天皇裕仁の単独インタビューを転載した。75年当時、ニューズウィーク日本版はまだ創刊されておらず、89年の掲載が初の日本語での出版。2006年に、当時インタビューを行ったバーナード・クリッシャー元東京支局長が本誌に回顧録を寄稿した


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。

※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】1975年、たった一度の昭和天皇単独インタビュー


 1962年にニューズウィーク特派員として日本の地を踏んで以来、昭和天皇とのインタビューを実現することが私の目標だった。

 その後、私は代々の首相をはじめ、日本の多くの著名人とインタビューを重ねたが、天皇に会うチャンスには恵まれなかった。そこで74年、日本に関する知識を総動員して、「不可能」を可能にする戦略を立てた。

 日本では、好ましい方向で合意を得るには根回しも重要だということを、私は学んでいた。

 75年10月に天皇が訪米するという記事を読んで、私は天皇とのインタビューにつながる道を見いだした。訪米を成功させなければ、という思いが日本中で高まる時期こそインタビューのチャンスだ。天皇は以前訪欧した際、反対デモにあっていた。

「好ましい方向で合意を得る」ため、私はそれから半年間、多くの官僚や政治家に会い、説得を試みた。天皇のインタビューがニューズウィークに載れば、世界中のエリートや大衆の目に触れるので、天皇の人間性をアピールし、人気と敬意を勝ち取るうえで役立つと説いたのだ。

 他の報道機関から競争相手が現れるのを避けるため、私と会ったことを口外しないよう、全員に求めた。ほとんど誰もが、私の意見は名案だと思うが進言する立場にはないと語った。私は、意見を求められたら反対だけはしないでほしいと頼んだ。

 主要閣僚にも会った。福田赳夫副総理は、ニューヨーク・タイムズ紙やタイム誌との合同インタビューを提案したが、私は反論した。ニューヨーク・タイムズは日刊紙なので、速報性の点でかなわない。それに、アメリカの新聞は主に一つの都市でしか読まれないし、魚を包むのにも使われる。タイムのほうは、東京特派員が着任して日が浅い。

 宮沢喜一外相からは、インタビューに反対している官僚はいるかと聞かれた。外務省の黒田瑞夫情報文化局長だけが、私の考えを厚かましいと言っていると答えると、宮沢は「なんとかしよう」と言った。宮沢は訪米随行団から黒田をはずし、前局長の藤山楢一大使と交代させた。

 6月には私の願いがかなう方向で合意が成立していたが、最終決定は9月まで待つよう言われた。天皇の訪米は、75年9月30日〜10月14日の予定だった。

 だがその後、問題が発生した。宮沢によると、宮内庁の宇佐美毅長官が、ニューズウィークの取材には同意したものの、私ではなく編集長がインタビューしてはどうかと言っているという。

 数年前に私が書いた記事がまずかったらしい。外国ではほとんど知られていない日本の実力者を取り上げた記事だ。その中で私は宇佐美を「陰の天皇」と紹介した。これが彼の気に障ったようだった。

 私は約15年にわたって日本に関する正しい情報を世界に伝えてきたと、宮沢に主張した。日本が天皇インタビューから私をはずすなら、他の国への異動を願い出ると言った。

締め切りを1日延ばして

 宮沢は、宇佐美をなだめる方法を見つけてはどうかと言った。

 そこで私は、宇佐美に近い2人の人物の助けを求めることにした。1人は木村俊夫。前外相で宇佐美の親戚だ。木村は、私がインタビューして書いた記事を気に入ってくれて、娘の結婚式にも招いてくれた。

 私は、宮内庁の湯川盛夫式部官長も知っていた。日産の広報担当だった湯川の息子とはしょっちゅう会っていた。私と妻は、知り合いの政治家の娘と彼の見合いを画策したこともあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産

ビジネス

焦点:米国市場、FOMC後も動揺続く恐れ 指標の注
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中