最新記事

中国

中国ドラマ規制リスト:学園ドラマも刑事ドラマも禁止!

2016年3月14日(月)20時46分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

建て前としての抗日戦争ドラマ

「通則」の一部を紹介してきたが、これでもごく一部にすぎない。これほどがんじがらめの規制があると、逆にどのようなドラマならば作れるのかわからなくなるほどだ。実際、中国のドラマ制作者たちは、規制とのいたちごっこに苦しみながら新ジャンルを開拓してきた。

 この経緯は2013年3月7日付「南方週末」紙の記事「"抗日"というビジネス "横店抗日根拠地"はいかにして開拓されたか?」に詳しい。2002年頃には裁判ドラマがヒットしたが規制され、2005年にはタイムスリップ時代劇がヒットしては規制され、2006年にはスパイドラマがヒット、そして規制......という流れをたどってきた。上述の山盛りの禁止事項は、いたちごっこによって積み重ねられてきたものとも言えるだろう。

 そして2000年代後半から一世を風靡したのが"傍流"抗日戦争ドラマだ。中国共産党お墨付きの正しいプロパガンダ作品は中国語で「主旋律」と呼ばれている。そこから外れた娯楽性の高い抗日戦争ドラマが人気となった。中国共産党が大活躍する抗日戦争ドラマならば、「愛国精神を高揚させるための作品であり、下世話な代物ではございません」という建て前をつけられるという発想だ。

【参考記事】ブルース・ウィリスが「抗日」映画に

 かくしてドラマ『抗日奇侠』では、素手で日本兵を引き裂くカンフーアクションや美女をSM風に縛り上げる拷問シーンが登場。台湾アイドルが主演を勤めた『向着砲火前進』は、ミッション・インポッシブル的なアクションに仕上がった。スパイとして日本軍高官に接触するという筋立てでセレブの社交界を描いた『雅典娜女神』という作品もある。

『抗日奇侠』

 南方週末の記事タイトルで触れられている横店映画城は、中国を代表する撮影スタジオだが、抗日戦争ドラマブームの時には同時に50作ものドラマが撮影されていたという。死亡した日本兵エキストラの数は累計10億人という笑えないジョークもあるほどだ。

 楽しい作品が大量生産された"傍流"抗日戦争ドラマだが、これも2013年頃には「正しい歴史を描いていない抗日雷劇(トンデモ抗日戦争ドラマ)だ」との批判が高まり、規制されるようになった。横店映画城も清朝の離宮「円明園」を復元したスタジオを作り、宮廷劇の撮影をメインとするようになっている。

 なぜ中国共産党はここまでドラマの内容に口をはさむのだろうか。端的に言ってしまえば、中国の政府は家父長的存在であり、親として子どもである国民のありとあらゆる面に介入しようとするからである。中国も立派な世界の大国に成長した以上、そろそろ子離れの時期ではないかと思うのだが。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中