最新記事

書籍

こんまりの魔法に見る「生と死」

「捨てる技術」の伝道師・近藤麻理恵の本が日本だけでなく アメリカでもベストセラーに──でもなぜ?

2016年2月1日(月)15時01分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

片づけブーム 日本のテレビ番組の企画でマサチューセッツ州の家庭を訪問し、衣類の畳み方を指導する近藤 Joanne Rathe-The Boston Globe/GETTY IMAGES

 日本人の書いた本がアメリカでベストセラーになるのは珍しい。だから近藤麻理恵の『人生がときめく片づけの魔法』の英語版が出たとき、さっそく手に取ってみた。読む前に驚いたのは表紙カバーのデザイン。水彩で描いた空のような水色の背景に、タイトルが控えめに、それもすべて小文字で入っている。

 もしかして、これって(アメリカで80年代にはやった)癒やし系の自己啓発本? まるで「あなたの心は危うくて、大文字の角にも耐えられないほど傷つきやすい。でもこのパステル調のカバーを開けば、希望と前へ進む力が見つかります」と言っているみたいだ。

『片づけの魔法』が説くのは、家にあふれるがらくた類はきっぱり捨て去れということ。片づけのプロとして、近藤の世界観は明確で揺るぎない。ときめかない物は捨てる。ときめく物は大切に。その2つに1つで、第3の道はなし。

【参考記事】アメリカの熾烈な競争が垣間見える、グルメ版『プラダを着た悪魔』

 彼女は自分の蔵書を情け容赦なく選別して30冊に絞る一方で、誰かがビニール袋にためた小銭を見ると「お金としてのプライド丸つぶれ」だと思って「せつない」気分になるという。

 近藤は服を適切に畳むことをある種の精神修行と見なし、「『片づけを学んだことがある』という家政学科出身の方でさえ、『片づけられない』」と嘆く。とことんシンプルな家事を追求する彼女の姿勢は、救世主的な情熱を帯び、従え、さもないと地獄に落ちるぞと詰め寄るカルトリーダーさながらの勢いだ。そして信者たちは、自宅の押し入れや棚を一掃した話を自慢げにネットで公開する。

 がらくたが苦にならない性分の私にとっては、およそ縁のない世界。定期的に(せめて時々)掃除する方法を教えてくれる本なら大歓迎だけれど。

 私も捨てることは大好きで、捨てた物が数カ月後に必要になって、後悔したことが何度もあるほど。片づけのエキスパートに言わせると、そんなことはまず起きないはずだ。でも私が予備のボタン(近藤によれば「とっておいても捨てても、使わない」)を瓶に入れているのは、それが実際に役立ったことが一度ならずあるからだ。

 しかし『片づけの魔法』とその続編を読んで驚いたのは、そこにパステル調とは程遠い感情の深い泉があったことだ。著者自身は気付いていないかもしれないが、実のところ彼女は「何事にも限界はあるという事実に目をつぶりたがる」という人間の根源的な習性と徹底的に闘っているのだ。

 例えば本の整理に関する章で、近藤はきっぱり申し渡す。いつか読むつもりで積んである本を、あなたがいつか読むことはない。永遠に、ない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数は0.8万件増、25年人員削

ビジネス

米労働生産性、第3四半期は 4.9%上昇 2年ぶり

ワールド

米の気候条約離脱は「自殺行為」、米経済に影響も 国

ワールド

ゼレンスキー氏、安保文書「準備整う」 トランプ氏と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 9
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 10
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中