最新記事

暴動

ロシアで暴れ出したネオナチ・フーリガン

2010年12月17日(金)16時43分
ミリアム・エルダー

人種差別が簡単にはびこる国

 ロシア政界の親玉的存在であるウラジーミル・プーチン首相は、モスクワで起きた今回の暴動についてコメントしていない。ドミトリー・メドベージェフ大統領は12日夜、ツイッター上でコメントした。エルトン・ジョンのコンサートに出かけたことをツイートした直後のことだ。

「マネージ広場とこの国はすべて管理下にある」とメドベージェフは書いた。「すべての暴動の扇動者が裁かれることになる。1人残らず。全員だ」

 メドベージェフは13日に連邦安全保障会議を召集し、こう警告した。「人種、民族、宗教に基づく憎しみや敵対心を煽る者たちは特に危険だ。彼らは国家の安定を脅かしている」「モスクワで最近起きた集団虐殺や人々への攻撃は、犯罪として裁かれ、責任者は罰を受けなければならない」

 モスクワの暴動では約65人が拘束されたが、全員が24時間以内に釈放された。多くのヨーロッパ諸国と同様、ロシアでもサッカーファンと極右の民族主義者の関係は複雑で、極右の人間がサッカーファンにカネを払って暴力をふるわせることなどよくある話だ。

 1カ月前に襲撃されたジャーナリスト、オレグ・カシンは、彼を襲ったのはおそらくフーリガンだったと証言している。フーリガンのほとんどはサッカーチームのファンクラブにたむろする若い男たち。過激グループにとって勧誘しやすい存在だ。

「彼らにリーダー格がいないことが唯一の救いだ」とコジェフニコワは言う。「彼らにリーダーが現れたら、途端にナチスのような反乱が起きるだろう」

 ロシアは民族主義が色濃い国で、人種差別は国民の間でも、政府やメディアの間でもいとも簡単に許容される傾向にある。ロシアのあるタブロイド紙は、アフリカ人は「日焼けし過ぎだ」と書いたくらいだ。

 それでも、NGOのSOVAセンターによれば、今年は暴力事件の発生率が低下しているという(ただロシアでは暴力が起きた件数を完全に把握することは難しいため統計は完全ではない)。今年になってから殺害された少数民族住民の数は去年の83人より少ない36人。怪我をした少数民族の数は去年の434人から340人に減った。

 ロシアの人種暴動は、世界各国にとっても他人事ではすまなくなるかもしれない。暴動の9日前、ロシアは2018年サッカーW杯の開催権を勝ち取ったのだから。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中