最新記事

バチカン

ローマ法王は辞めるべきだ

性的虐待スキャンダルでカトリック教会の腐敗した体質が露呈した。内部を浄化するにはその体質を象徴する指導者を代えるしかない

2010年3月30日(火)16時19分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

問われる判断 ベネディクト16世は教会のために自らが犠牲になる勇気があるか Alessandro Bianchi-Reuters

 ローマ法王ベネディクト16世は今週、信仰の権威を守ろうと「世間を支配する些細なゴシップに惑わされない」ための「勇気」を与える、と発言した。しかし本人の意図とは逆に、法王の発言は、自身がカトリック教会が直面する危機の本質を理解していないことを露呈した。

 問題は「些細なゴシップ」にあるのではない。問題は、神父たちが数十年にわたって罪の無い何千もの子供を虐待したという、おぞましい事実だ。しかも子供たちやその家族が全幅の信頼を置いてきた神父が、だ。

 問題は些細なゴシップではない。問題なのは、他の組織ならば隠蔽工作や謀略とも受け止められかねない対応を、カトリック教会が行ったことだ。問題なのは、慈悲をもって尽くすべき相手よりも、金と権力をもつ組織の利害を優先するその体質だ。カトリック教会が守られる必要はない。守られる必要があるのは子供たちだ。

 問題は些細なゴシップではない。問題は、カトリック教会を指導する立場にある法王が自身が、腐敗した体質の象徴と見られていることだ。法王自身は、道徳的で崇高な人物かもしれない。ただ、ここ数十年、肉欲に溺れた一部の聖職者らと同じように、法王や他の指導者たちも同じように権力欲に溺れたのかもしれない。その結果、彼らは道徳を通じてのみ存在しうる組織を汚し、カトリック教会は近年で最大の危機に直面している。

 ニューヨークのティモシー・ドーラン大司教は、法王をイエス・キリストと比較することまでした。法王もキリストと同じく冤罪に直面したから、という理屈だ。あきれるほどひどい比較だ。しかし、有益なメッセージもあるかもしれない。世界中で復活祭を祝われる今週、キリストは人類のための犠牲を払ったとして特に崇められる。もし法王がキリストに倣うのなら、自身が犠牲を払うことで生まれる利益を考えるだろう。

 長年蔓延してきた体制問題に直面していれば、どんな組織でも指導体制を変えようとするだろう。道徳を基盤とする組織の場合、指導者自身がその基礎を脅かす象徴と見られているなら、指導者を代えて、基本的価値観と本来組織が奉仕すべき人々の利害の方が、一部指導者層の利害よりもずっと大きいと示すしかない。

 今こそ、バチカンは内部を浄化する必要がある。中途半端で弁解気味な謝罪や問題を小さく見せようとする姿勢、被害者よりも加害者を優先させてきた現状を見れば、明らかなことだ。

 ローマ法王は善人かもしれない。だが、皮肉にも彼の偉大さは、自身が指導するカトリック教会のために自らの利害を捨てる勇気があるかどうかで判断されるかもしれない。

Reprinted with permission from David J. Rothkopf's blog, 30/03/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中