最新記事

環境

アメリカのビーチは糞まみれ

問題は原油流出だけじゃない。人間や動物の排泄物が流入し、ビーチは危険なまでに汚染されている

2010年7月29日(木)17時40分
シャロン・べグリー(サイエンス担当)

見えない汚染 実態を知ったらもう海水浴には行けないかも Lucy Nicholson/REUTERS

 黒々としたタールの塊も、艶やかな光沢を放つ原油も、暗褐色のムース状に変化した油も大した問題ではない。

 アメリカのビーチを汚染する本物の悪魔は、メキシコ湾の惨劇でまき散らされた原油ではなく、人間や動物の排泄物。豪雨や下水道の氾濫によって、有害な病原菌が全米の海岸線に容赦なく流れ込んでいる。

 全米の海岸の水質を調べた天然資源保護委員会(NRDC)の第20回年次報告書において、NRDCのデービッド・ベックマンはこう記している。「気分を悪くさせる病原菌から危険な油膜まで、アメリカの海岸は人間を病気にし、海洋生物に害をなし、沿岸部経済を破壊する汚染に苦しみ続けている」

 アメリカには大西洋岸、太平洋岸、メキシコ湾、五大湖などのビーチがあるが、週末に海水浴に出かける前には、水中のバクテリア濃度や水質検査の頻度をチェックしよう。また、汚染状態に応じてきちんと注意勧告を出すビーチなら、排泄物まみれの海水浴という不本意な休日を回避できる(NRDCによる人気ビーチの評価はこちら)。

汚染ビーチが最も多いのは五大湖沿岸

 全米3000ヵ所のビーチのデータは政府から提供されたもので、水質検査やビーチの閉鎖、勧告などの情報が含まれている(勧告は、水中のバクテリア濃度が注意を呼びかけるべき高さに達しているものの、州や連邦政府が定めるビーチ閉鎖の基準には達していない場合に出される)。2009年には、ビーチが閉鎖されたり注意勧告が出された日が延べ1万8682日あった(ちなみに、原油流出事故によってメキシコ湾岸でビーチが閉鎖されたり注意勧告が出されたのは、延べ2239日しかない)。

 NRDCの報告書では、全米の人気ビーチ200ヵ所が、水質、検査頻度、注意勧告の実施状況に基づいて5段階で評価されている。

まず、09年の「ベスト・ビーチ」を見てみよう。

・ミネソタ州(ラファイエット・コミュニティー・クラブ・ビーチ、パークポイント13番街のフランクリン・パーク)

・ニュー・ハンプシャー州(ハンプトン・ビーチ州立公園、ワリス・ロードのワリス・サンズ・ビーチ)

・カリフォルニア州(ボルサ・チカ・ステートビーチ、ハンティングトン・シティービーチ、ニューポート・ビーチ、デーナ・ストランズのソルト・クリーク・ビーチ、カーディフ・ステートビーチとラグーナ・ビーチの一部)

・アラバマ州(ガルフ・ショアーズ・パブリックビーチ。残念ながら、このビーチは原油流出事故の影響ですでに50日以上間閉鎖されている)
 
 一方、水質汚染が極めて深刻なのは以下のビーチだ。

・フロリダ州(ベン・T・デービス・ノース、ディキシー・ベル・ビーチ、モニュメント・ビーチ、ナバレ・パーク、クワイエットウォーター・ビーチ、シモンズパーク、トレジャー・アイランド・ビーチ)

・メーン州(オールド・オーチャード・ビーチ、ロング・サンズ・ビーチ、ショート・サンズ・ビーチ)

・ミシシッピ州(コートハウス・ロード・ビーチ、エッジウォーター・ビーチ、フロント・ビーチ)

・ノース・カロライナ州(ナッグズ・ヘッドの一部)

・ニューヨーク州(ハムリン・ビーチ州立公園、オーチャード・ビーチ、ロバート・モーゼズ・ステートパークビーチ、ロックアウェイ・ビーチとコーニー・アイランドの一部)

・ロード・アイランド州(ナラガンセット・タウン・ビーチ)

・サウス・カロライナ州(マートル・ビーチ、サウス・カロライナ州立公園、スプリングメイド・ビーチ、サーフサイド・ビーチ)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中