最新記事

米空軍

さらば栄光のトップガン

2009年12月15日(火)14時48分
フレッド・カプラン(オンラインマガジン「スレート」コラムニスト)

「かっこ悪い」無人機が活躍

 この第2の任務に関して、空軍は無人航空機(UAV)への依存を年々強めている。戦場から遠く離れた基地にいる操縦士が機器を操作して、パイロットの乗っていない航空機を動かす。現地の映像は、機体に装着してあるカメラを通じてリアルタイムで送られてくる。遠隔操作で標的に爆弾を投下することもできる。

 UAVは、90年代のユーゴスラビアと01年のアフガニスタンで威力を発揮。その効果を目の当たりにしたことで、イラクでゲリラと戦う地上部隊はこぞってUAVによる支援を希望した。狙撃兵の潜んでいる場所や、道路沿いに仕掛けてある爆弾を上空から見つけ出してほしいと考えたのだ。

 ブッシュ政権時代の06年末に国防長官に就任したゲーツは、軍の現場でUAVへの需要が高まっていることをすぐ見て取り、UAVを早急に増やすよう命令した。

 当時のT・マイケル・モーズリー参謀総長をはじめとする空軍の上層部は、乗り気でなかった。「モーズリーを動かすのは並大抵のことではなかった」と、ある国防総省高官は言う。「ゲーツは非常にいら立っていた」

 当時の国防総省内で働いていた空軍のパイロットは言う。「空軍では、UAVに対する抵抗感が極めて強かった。かっこ悪いというのがその理由だ。『パイロットが乗らない飛行機? 冗談じゃない!』という雰囲気だった」

 そんな反対派を追い出したいとゲーツは考えたが、08年6月、そのチャンスがやって来た。弾道ミサイルの弾頭の起爆装置が間違って台湾に送られてしまった事件と、爆撃機が核爆弾を搭載してアメリカの国土の上を飛行した事件が相次いで発覚したのだ。この2つの不祥事の責任を取らせる形で、ゲーツはモーズリーと空軍長官(文官トップ)のマイケル・ウィンを更迭した。

 モーズリーの後任に、これまでどおり戦闘機パイロット出身者を充てるよう空軍は働き掛けたが、ゲーツが選んだのは輸送機パイロット出身のシュワーツだった。

中露との同時戦争は非現実的

 シュワーツは輸送部門の指揮官として、陸軍が購入した最新鋭の装甲兵員輸送車をイラクに迅速に空輸する任務を嫌がらずに引き受けていた。この男であれば、UAVの配備推進も受け入れるのではないかと、ゲーツは考えたのだ。

 その見通しは正しかった。シュワーツが参謀総長に就任する前年の07年、空軍は常に平均して21機のUAVを戦闘地域の上空で偵察飛行に従事させていた。1年間の飛行時間の合計は10万時間余りだった。11年までに、この数字はそれぞれ54機と35万時間近くに増えることになっている。

 09年に空軍で訓練を受ける要員は、爆撃機や戦闘機のパイロットよりUAVの操縦士のほうが多い。「(空軍の)活動の中心に身を置きたければ、この職種を選択するべきだ」と、シュワーツは言う。「今だけのことではない......(UAVの操縦士は)将来性のあるキャリアの選択肢だ」

 やがて、飛行機に触った経験のない人間が空軍幹部になる時代がやって来る可能性も十分にある。空軍の歴史に詳しい歴史家のC・R・アンダーエッグは言う。「兵士の昇進を決める委員会としても、UAV部隊を指揮した経験のある大佐の昇進を見送り、代わりにその経験のない大佐を選ぶのは非常に難しくなるだろう。UAV部隊の指揮官はF22のパイロットに比べて実戦経験があるし、広い視野で戦場を見ることができる」

 戦闘機パイロット出身の空軍幹部はしばしばこの変化に抵抗し、F22の配備拡大を強く主張し続けている。「多くの空軍幹部が心配しているのは、目先の戦争でのニーズにこだわり過ぎるあまり、未来の安全が脅かされないかという点だ」と、ある空軍幹部は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中