最新記事

米事件・犯罪

LAギャングの消えないタトゥー

 「死の街」ロサンゼルスに生きる2人の元ギャング。銃と麻薬と抗争の日々から足を洗うと誓った彼らは、裏社会に引き戻そうとする「引力」と必死に闘っていた

2009年4月7日(火)11時54分
スザンヌ・スモーリー、エバン・トーマス

 その施設は「ヤスチューボ」と呼ばれている。スペイン語の俗語で「もうこりごりだ」という意味だ。週に数回、医師がやって来てレーザーでタトゥー(入れ墨)を消す処置を行っている。ギャングのメンバーのなかには、目のすぐ下に黒い涙の形をしたタトゥーを入れている者もいる。涙1個につき、刑務所暮らし1回もしくは殺人1人という意味だ。

 ガブリエル・イノホスは、カリフォルニア州立フォルサム刑務所への入所で涙のタトゥーを一つ入れた。目の下の皮膚からインクを抜くとき、苦痛に顔がゆがむ。「料理の最中に油がはねる。ああいう痛みが何度も繰り返される」

 ヤスチューボに通うのはこれで40〜50回目だが、目立つ場所にまだタトゥーが残っている。首には、所属していたヒスパニック系ギャング「フロレンシア 13」の名前が大きく刻まれている。側頭部には巨大な黒いクモ。「スパイダー(クモ)」は昔のギャング名だ。だいぶ薄くなったタトゥーもあるが、完全に消えたものはない。

 ロサンゼルスや近郊のストリートギャングを抜けるのは、タトゥーを消すのと似ている。長い時間がかかり、激しい痛みを伴い、あとに深い傷が残る。ギャング生活の誘惑を振り切ることのむずかしさをイノホスはよく知っている。

 以前イノホスはギャングから足を洗い、ハンサムな顔立ちとカリスマ性も手伝って「更生した元ギャング」のシンボルになっていた。ホワイトハウスに招かれて当時の大統領夫人ローラ・ブッシュとも面会した。しかしその数カ月後、イノホスは刑務所にいた。

 ギャングの一員になったのは14歳のとき。家庭環境が苦しくてギャングとつるむようになったと、イノホスは本誌に語る。16歳のときには敵対するギャングに銃撃され、オートバイに2人乗りしていたガールフレンドが命を落とした。麻薬を売り、車を盗み、銃を使うようになった。「銃を手に持つのが好きだった」と振り返る。

 21歳のとき、別のギャングの家に銃弾の雨を降らせて刑務所に送り込まれた。2年で仮釈放になったが、これで重罪の前科が二つ。重罪であと1回有罪判決を受ければ、3度目の重罪で自動的に終身刑になるという「スリーストライク(三振)法」が適用される。

「悪魔」の誘惑に負けて

 全身タトゥーだらけの男を雇おうとする会社はなかったが、ギャングに戻れば一生を刑務所で暮らす運命を招きかねない。そんなときロサンゼルスのホームボーイ・インダストリーズという団体を知った。この団体では、高卒資格試験対策の講座、心理セラピー、薬物・アルコール依存脱却のカウンセリング、職業訓練、タトゥーの消去などの支援活動を行っている。

 天性のリーダーシップの持ち主であるイノホスは、ホームボーイのスタッフとして働くようになった。家庭を大切にし(すでに結婚して子供もいた)、ギャング生活を送っていたロサンゼルス南部のフローレンス地区界隈から引っ越した。ファーストレディーと記念撮影したのは、この時期のことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 8
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 9
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 10
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中