太陽光+水素燃料電池で「電車が走る」未来へ...パナソニックの新発電システムが切り拓く道
大阪メトロの検車場としては最大の敷地面積を持つ森之宮検車場。パナソニック製の「太陽光+純水素型燃料電池」システムを導入した Photo: Yoshitaka Nishida
<再エネ由来の電力を購入する方法ではなく、自家発電の再エネで公共交通機関を運行することは可能なのか。水素社会の到来に向けた取り組みを、パナソニックと大阪メトロが開始した>
日本企業のたとえ小さな取り組みであっても、メディアが広く伝えていけば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。そのような発信の場をつくることをミッションに、ニューズウィーク日本版が立ち上げた「SDGsアワード」は今年、3年目を迎えました。
私たちは今年も、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
再生可能エネルギーの普及が進んでいるが、課題の1つは安定性だ。太陽光であれば天候や昼夜の差、風力であれば風況に発電量が左右される。その弱点を補うものとしては、電気を貯められる蓄電池があり、家庭用から大規模施設まで蓄電システムの拡大も進む。
もう1つ、脱炭素社会の切り札とみられているのが水素を使う燃料電池だ。燃料となる水素を燃やすのではなく、化学反応により電気を作り出すためCO₂を排出せず、エネルギー効率も高い。
2024年10月には「水素社会推進法」が施行され、水素の供給・利用促進を目指した、国による認定事業者への価格差支援やインフラ整備支援がスタートした。安定性に課題のある太陽光発電などを使えば調整電力が必要となるが、水素発電はその有力な選択肢になる。
これからは水素発電――という動きが活発化するなか、導入のハードルが高い公共交通機関でも、ある取り組みが進んでいる。「再エネで電車を走らせる」挑戦だ。
自動車や航空機と比べ、CO₂排出量が少ない鉄道でも、電力会社から再エネ由来の電力を購入するなどして「再エネ100%」の電車を走らせ始めた。だが、再エネを自家発電して使えるかと言えば、「雨の日は走りません」というわけにいかず、これまで難しかった。
そこで大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)は再エネの利用拡大と、自家発電による電力の安定供給に向け、パナソニック製の「太陽光+純水素型燃料電池」のシステムを導入。2024年10月から、同社の森之宮検車場(大阪市城東区)で実証実験を行っている。
3電池連携の実証施設「H2 KIBOU FIELD」訪問がきっかけ
パナソニック株式会社ではグループ全体の長期環境ビジョンとして、2050年までに3億トン以上のCO₂削減インパクトを目指している。
その実現のカギを握るのが水素燃料電池や太陽光発電の事業であり、2022年4月には施設や設備の稼働に必要な電力を100%再エネで賄う「H2 KIBOU FIELD」を滋賀県草津市にオープンした。太陽電池と蓄電池、高効率な純水素型燃料電池を組み合わせた「3電池連携」の実証施設だ。
パナソニック株式会社エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)エネルギーソリューション設計技術課の彦坂多(ひこさか・まさる)氏によると、これまで3年間で約900組が視察に訪れ、日本国内での純水素型燃料電池の設置も拡大してきているという。
大阪メトロの森之宮検車場へのシステム納入も「H2 KIBOU FIELD」がきっかけだった。担当者が施設を訪問、パナソニックEW社からの「太陽光発電と水素発電を結合し、6600ボルトに昇圧し、高圧にして系統連系を行う」という提案が、大阪メトロの目指す脱炭素化に最も有効だと判断した。
検車場に導入されたのは、合計100kW(キロワット)の太陽光発電パネルと、5kWの純水素型燃料電池2台。発電量(2025年目標)は年間で太陽光が11万kWh(キロワットアワー)、水素が8000kWhとなり、一般家庭での電力需要の17世帯分に相当するという。





