最新記事
映画

「どうしてそんなに怒るの?」...映画『ハード・トゥルース』が描くのは、普通の家庭に潜む「怒り」と「孤独」

A Quiet Masterpiece

2025年10月31日(金)15時03分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
『ハード・トゥルース』でパンジーを演じるマリアンヌ・ジャン・バプティスト(左)

パンジーは妹(右)と出かけた墓参りでも文句ばかり ©UNTITLED 23 / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION / MEDIAPRO CINE S.L.U.

<笑い声の溢れる家と、笑えない家。その落差が痛い。巨匠マイク・リー監督の最新作は、普通の家庭の「日常の軋み」を浮かび上がらせる――(ネタバレなし・レビュー)>

劇場で映画を見る醍醐味の1つは、見ず知らずの多くの人たちと同じ物語を見て、一緒に泣いたり笑ったりすることだろう。暗闇の中でお互いに言葉を交わすことはなくても、自分は独りぼっちではないのだと肌身に感じさせてくれる経験だ。

【動画】『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』予告編

だが、マイク・リー監督の『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』は、ほとんど笑えない。それどころか、物語が進むにつれて観客はひどいしかめ面になっていく。

パンジー(マリアンヌ・ジャン・バプティスト)は、無口な夫と無職の息子とロンドン郊外に住む中年女性だ。毎朝、この世界に目覚めることが最大の苦痛であるかのように起床し、夜、眠りに就く瞬間まで、ずっと怒っている。

スーパーのレジ係にも、内科医にも、駐車場で声をかけてきた見知らぬ人にも、パンジーはけんか腰で当たり散らす。

近所の住民が子供に着せているベビー服についてさえ、「赤ん坊の服になんでポケットが必要なの?」と、言いがかりに近い怒りを示す。

もし、観客の間で笑いが起こったとしたら、それは意外に的を射た彼女のコメントに同意するからではなく、彼女がとにかくいつも文句を言っていることへの失笑だ。

投資
「FXで長期投資」という投資の新たな選択肢 トライオートFX「世界通貨セレクト」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、核実験開始を再表明 地下実験の可能性否

ワールド

ロシア首相が来月訪中、習主席と会談へ 二国間協力強

ワールド

スーダンで数百人殺害の可能性、国連人権機関が公表

ビジネス

全ての会合が「ライブ」に、12月利下げ確実視せず=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中