映画『異端者の家』──脱出サイコスリラー主演、ヒュー・グラントが見せるイメージを覆す圧倒的な存在感
Moving to the Dark Side
ある意味、この作品で俳優ヒュー・グラントは生まれ変わったと言える。若き日の単なる二枚目俳優から、年輪を重ねて人生の表も裏も演じ分けられる役者になった。
かつては「アメリカの恋人」とまで呼ばれたグラントだが、今はすっかり悪役が板に付いている。
23年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』では昔の仲間を裏切る冷酷な盗賊を演じ、同年の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』では緑色の髪にオレンジ色の肌で無表情なウンバルンパを怪演した。どちらの作品も大ヒットしたが、それは今や観客が「悪役」グラントを愛していることの証拠だった。
『異端者の家』で演じたミスター・リードもまた、今のグラント(この秋には65歳になる)が当代一の愛すべき悪役であることを前提としてキャスティングされている。
この男、見たところは無害な老紳士だ。自宅を訪れた若い女性信徒のバーンズ(ソフィー・サッチャー)とパクストン(クロエ・イースト)を迎え入れ、妻は別の部屋でパイを焼いているところだと言って安心させる。
実は妻などいないことに2人が気付く頃には、もう逃げ場はなくなっている。「君たち、もう生きて外には出られないかもね」と告げつつ愛嬌を振りまくミスター・リード。まだら模様のカーディガンに薄いオレンジ色の眼鏡、ぼさぼさ頭という風貌だが、自信たっぷりで、絶対に人から憎まれない(だってヒュー・グラントだから)と信じている。