最新記事
映画

麻薬カルテルのボスが性転換で「アンチヒロイン」に...映画『エミリア・ペレス』は犯罪サスペンスで異色のオペラ

A Wild Ride of a Movie

2025年3月21日(金)15時13分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
映画『エミリア・ぺレス(Emilia Pérez)』でリタを演じるゾーイ・サルダナとエミリアを演じるカルラ・ソフィア・ガスコン

リタ(左)は女として生まれ変わったエミリアに再会 NETFLIXーSLATE

<カンヌ国際映画祭では賛否両論。主演にトランスジェンダー俳優を迎えた異色のミュージカル映画は「女として生きること」を型破りに描き出す──(ネタバレなしあらすじ&レビュー)>

フランスの巨匠ジャック・オディアール(Jacques Audiard)が監督・脚本を手がける映画『エミリア・ぺレス(Emilia Pérez)』は、冒頭から明らかにミュージカルだ。

映画『エミリア・ペレス』予告編


典型的なブロードウェイ・ミュージカルの映画化では登場人物が感極まったときだけ歌い出すが、本作では登場人物より先に音楽が湧き上がってくるかのようだ。


フランスの作家ボリス・ラゾン(Boris Razon)の小説『エクート(Écoute)』(2018年)を原案にしたオペラをという当初の想定どおり、派手で仰々しい作品に仕上がっている。

本作の歌姫は1人ではなく3人。それぞれが激しい怒りや憧れ、充足感や葛藤に欲望を込めた長いアリアを最低1曲は歌い上げる。2時間ちょっとの上映時間で、メキシコやイギリスでの約5年間の出来事を網羅。

ストーリーもクライム、メロドラマ、自我の不可解さをめぐる省察など多岐にわたり、さらにはサスペンス、偽りのアイデンティティー、贖罪、傲慢など、フィルムノワールとかつてのお涙頂戴の「女性映画」ほどジャンルの異なるテーマを扱っている。

女性のみに向けた作品ではないが、女として生きる体験を深く掘り下げる。それを一種の監獄の中のように感じる者もいれば、女性であることを個人的・社会的な再生の可能性の場とみる者もいる。

トランスジェンダーの(アンチ?)ヒロインであるエミリア・ペレスを演じるのは、スペイン出身で自身もトランスジェンダーの俳優カルラ・ソフィア・ガスコン(Karla Sofía Gascón)。度量は大きいが矛盾だらけで、立派だが救い難い人物を斬新かつ感動的に演じている。

編集部よりお知らせ
ニュースの「その先」を、あなたに...ニューズウィーク日本版、noteで定期購読を開始
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界インフレ動向はまちまち、関税の影響にばらつき=

ビジネス

FRB、入手可能な情報に基づき政策を判断=シカゴ連

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中