最新記事

欧州債務危機

EUがひた隠すギリシャ危機のプランB

EUの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の採決が行われるが、EUが黙して語らない否決の場合の代替策とは

2011年6月29日(水)16時33分
テリ・シュルツ

放漫のツケ EUの支援と引き換えの緊縮財政に反対するギリシャ人(6月28日、アテネ) Yannis Behrakis-Reuters

 欧州連合(EU)からの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の審議が26日からギリシャ議会で行われている。新たな歳出削減などを盛り込んだこの法案を、もしもギリシャが否決したらどうなるのだろうか。

「代替のプランBがあるなどと誰にも思わせてはならない」と、ルクセンブルク首相でユーロ圏財務相会合の議長として統一通貨ユーロに参加する17カ国の会合を取り仕切るジャンクロード・ユンケルは言った。「そして実際、プランBは存在しない」。ギリシャ問題を話し合うために先週ブリュッセルで開催されたEU首脳会議の直後のことだ。

 EUはギリシャのデフォルトを回避するために追加の救済策を実行する用意があるが、ギリシャ議会の採決待ちの状態だ。議会は29日、前提条件としてEUから求められた400億ドル規模の歳出削減と増税について採決しなければならない。ギリシャ議会が緊縮財政案を否決するようなことになった場合、今のところ代替案はいっさい残されていない、ギリシャはデフォルト(債務不履行)に陥るしかないと、EUは主張する。ブリュッセルではプランBについて話すことはタブーになっているのだ。

 だが最悪の場合、ユーロやEUそのものの存在すら危うくなるという今の状況の中、EUが先のプランを考えていないことなど到底ありえない。だとすると、EUの「代替案なし」ははったりだろうか。

ギリシャはドラクマに戻るべき

 シンクタンク「ヨーロッパ政策センター」のアナリスト、ジャニス・エマヌイリディスは、口先だけの問題ではないという。EUと各国リーダーたちは見事なまでに「プランBは存在せず」という筋書きに固執しているが、エマヌイリディスは「どんな場合でも、市場で起こりうるあらゆる事態に備えておくべきだ」と言う。29日にギリシャで何が起こるにせよ、EUは独自に代替案を用意しておく必要があると、彼は考えている。

 理想を言えば、EUは改革案を策定すべきだと彼は言う。その中には「ユーロ債の導入や欧州財務省の創設、税制や社会制度で域内の政策を統一すること、EU予算を十分に拡大すること」が含まれるという。

 それはいずれ、「1つの国家に匹敵するような経済・政治連合の誕生につながる。実現すればユーロ圏の危機を解決できるだけでなく、世界の発展においてヨーロッパが主導的役割を発揮するという戦略上の目標も達成できる」と彼は言う。

 一方、経済アナリストで統一通貨ユーロに批判的なダニエル・ゲゲンは、ユーロを離脱する国が出てくるあり得るということをEUは受け入れるべきだと言う。ギリシャは当然そのケースになる。「(ギリシャの通貨)ドラクマに戻るべきだ」と、ゲゲンはギリシャ債務の再構築を提案する。

 ゲゲンの言う「大きな懸念」は、債務危機がこのまま拡大を続けること。「ポルトガルにも既に問題が発生し、アイルランドやスペイン経済にも危険が潜んでいる」と彼は言う。「大変危ない状況だ」

 ゲゲンの提案で問題なのは、これまでにもギリシャのユーロ離脱は何度か言われてきたものの、今のところユーロ離脱(あるいは追放)の仕組みそのものが存在しないことだ。あまりに繊細な問題なため、欧州中央銀行(ECB)広報官のウィリアム・レリベルドはこの問題について語ることを拒否した。ユーロ圏の解体について質問されても「ノーコメント」と繰り返している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中