コラム

二正面作戦を戦うロシアの苦境

2024年07月04日(木)11時00分

しかし、この種の陰謀論は単純な事実を無視している。情報機関はウクライナ戦争と国内反体制派の対応に忙殺されているため、こうした無差別殺人に関する情報収集と必要な対策がおざなりになるのも当然だ。ウクライナがロシアの軍事インフラや石油・ガス精製所への攻撃を強化し、ロシア国内では不安が徐々に広がり始めている。ダゲスタンのテロ事件の後、クリミアの海岸でも民間人の死傷者が多数出た。ウクライナがより多くの弾薬と攻撃用兵器の支援を受け、情報能力を向上させれば、ロシアの苦境はさらに深まりそうだ。

私が初めてモスクワを訪れた15年前に印象的だったのは、地下鉄や空港、大学やショッピングモールに入る前の厳重なセキュリティーチェックだ。9.11同時多発テロ後でも、アメリカ人の私には、これほど厳重な警備体制は経験がなかった。


それでもモスクワの友人たちは、小学生だった90~00年代に感じた本物の恐怖を思い出し始めている。私の妻が最初のダゲスタン旅行の前と同じような反応をするかどうかは分からない。だがロシア人が空港や映画館に行くとき、テロ攻撃が市民を震え上がらせた00年代初頭を彷彿させる恐怖を抱き始めた今、ウクライナ戦争の「副作用」が軍事面だけでなく、心理面でもロシア本国に影を落としつつある。

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プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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