コラム

トランプに見習わせたいジョージ・ワシントンの精神

2018年05月26日(土)14時20分

初代大統領ワシントンの肖像画の前で語るトランプ Joshua Roberts-REUTERS

<批判を許さない暴君のようなトランプを前に、自ら暴政への防波堤を設けた初代大統領ワシントンは何を思う?>

私はトランプ米大統領の言う、既得権益にまみれた「沼」の住人だ。生まれ育ったワシントンは、ホワイトハウスや議会議事堂、世界銀行、各国の大使館が集まるエリートの中心地とみられている。

国際政治の舞台でわが物顔に振る舞うポピュリスト政治家が台頭している今こそ、この都市の名の由来となり、大統領という概念をつくったジョージ・ワシントンに思いをはせるべきだ。

ジョージタウン大学に勤務する私は、いつも「大統領の階段」を使う。ワシントンからクリントン、オバマまで十数人の大統領が演説を行った場所だ。

大学は1789年に創立された。ちょうどワシントンが大統領に就任し、アメリカで大統領制に基づく民主主義が始まった年だった。

ワシントンが残した最も重要な言葉は、大統領辞任の挨拶だった。2度の選挙に楽勝し、当時の制度では3期目以降も大統領の座にとどまることができたが、彼は身を引いた。有能な指導者は自らの限界を知るべきだというメッセージだった。

ワシントンの辞任挨拶は、後の歴代大統領に驚くべき影響を与えた。20世紀半ばまで、憲法に大統領の3選禁止の規定はなかった。しかしワシントンがつくった不文律は、フランクリン・ルーズベルトが大恐慌と戦争という非常時に4選を果たすまでは守られた。

権力者は可能な限り権力の座にとどまろうとするものだ。しかしアメリカでは初代大統領が3選を目指さなかったために、憲法に3選禁止が明記される前にも、2期限りで引退した大統領が7人もいた。

この国に「王」はいらない

ルーズベルトは4選を果たし、4422日も大統領職を務めた。彼の死後、憲法はワシントンの前例に倣うように改正された。憲法改正には連邦上下両院の3分の2以上による発議と、州の4分の3の承認が必要だ。つまり、最低でも全米の約75%が同意しなくてはならない。憲法改正には、圧倒的な同意が必要になる。

事実、大統領選の一般投票では記録にある限り、75%もの票を獲得した大統領はいない。それでも議会は47年春に大統領の3選を禁じる合衆国憲法修正第22条を可決し、51年2月にしかるべき数の州の賛成によって批准された。

大統領の任期を2期に制限するこの修正条項が成立して以来、初代大統領がつくった前例に基づく精神は厳重に守られている。アメリカ国民はワシントンの前例を単なる大統領の任期の制限ではなく、同じ党が3期続けて政権を握ることへの警告として受け止めている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ平和サミット開幕、共同宣言草案でロシアの

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story