コラム

米共和党の「赤い波」は不発──中間選挙では全員が敗者

2022年11月10日(木)12時00分

インフレ批判を背景に共和党への追い風が予想されていたが…… Gaelen Morse-REUTERS

<予想されていた共和党への追い風は吹かなかったが、バイデン政権の議会運営が困難になることは確実>

米現地時間11月8日(火)に投開票が行われたアメリカの中間選挙ですが、直前の情勢としてはあらゆる世論調査を通じて、共和党に勢いがあるというデータが出ていました。共和党のイメージカラーが赤であることから、「ビッグ・レッド・ウェーブ」つまり共和党の大きな波が押し寄せる、そんな予想がされていました。

具体的には、まず下院では過半数を20議席前後超える圧勝、上院でも1~2議席を奪って過半数となり、完全な「ねじれ議会」が実現して、バイデン政権は「レイムダック化」する、ニューヨークなど主要な州の知事も共和党に変わる、そんな見通しがメディアで散々語られていました。

ところが、蓋を開けてみると、見えてきた景色はかなり予想とは異なっています。本稿の時点では、投票日翌日の晩に差し掛かっていますが、上下両院ともにどちらが多数を制するかはまだ決着がついていません。

まず、上院ですが現時点では民主党48,共和党49で残りは3議席。まずアリゾナ州では民主が優勢です。ネバダはやや共和党が先行していますが、両者拮抗しています。またジョージア州では、両者がともに50%を確保できないことがほぼ確定しており、12月6日に再選挙となる見通しです。

議会民主党には希望が出てきたが

仮にネバダを共和党、アリゾナを民主党が取って、ジョージアの再選挙で民主党の動員力が上回るとしますと、最終的に上院は50対50で副大統領の最終投票で民主党が過半数になるという選挙前の状態が維持されることになります。

下院は、どうやら僅差で共和党が多数になる見通しですが、数議席の差であれば党議拘束のないアメリカの場合、政権側には根回しで予算を通す可能性がゼロではなくなるわけで、事前の予想とは違って民主党側には希望が出てきました。州知事選でも、危ないと言われたニューヨークの現職ホークル知事が逃げ切りに成功しています。

最終結果は出ていませんが、この選挙を一言で言えば「全員が敗者」という印象です。

まず共和党の勢いが鈍ったことについて、ドナルド・トランプはかなり怒っているようです。例えば、一番の鍵を握る選挙戦となったペンシルベニアの上院選で敗北したことについては、候補にテレビタレントでトルコ系の「オズ医師」を選択したのは間違っていたとして、こともあろうにメラニア夫人が「オズ氏を推薦した」ことを非難しているそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

金現物、4500ドル初めて突破 銀・プラチナも最高

ワールド

イスラエル、軍ラジオを来年閉鎖 言論の自由脅かすと

ワールド

再送-ベネズエラが原油を洋上保管、米圧力で輸出支障

ワールド

豪NSW州で銃規制・ 反テロ法強化、乱射事件受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story