コラム

バイデン来日の目的は本当に「対中包囲網」なのか?

2022年05月18日(水)16時00分

支持率低下でバイデンは追い込まれている Elizabeth Frantz-REUTERS

<インフレによるアメリカの有権者の怒りは、現職大統領であるバイデンに向かっている>

5月22日にバイデン米大統領が来日します。日米首脳会談に続いて、東京で「QUAD(クアッド)」つまり、日本とアメリカ、インド、オーストラリアの4カ国の首脳会議が開催されます。「クアッド」では、安全保障などの分野での連携が語られるようです。

また、バイデン大統領は、今回の訪日に合わせて「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明するそうです。アメリカのレモンド商務長官が17日の記者会見で発表しています。

この2つはいずれも「中国包囲網」という性格を持っています。「クアッド」は軍事外交上の包囲網ですし、IPEFも通商上の包囲網という性格を持つことが予想されます。世界はロシア・ウクライナ戦争という危機を抱えていますが、少なくとも今回の「バイデン訪日」に関しては、相変わらず通商面でも安全保障面でも中国に対抗しようという姿勢に見えます。

ですが今、バイデンにはそんな余裕は全くありません。

バイデンの支持率は40%と低迷し、特に無党派層では35%と危険水域に入っています。アメリカでは、11月の中間選挙に向けて予備選が佳境を迎えていますが、有権者の間には現状不満のエネルギーが満ちています。

40年ぶりの物価上昇率

不満の原因はほかでもありません。インフレです。前年比での物価上昇率は、ここ数カ月、8.5%前後という40年ぶりの高い上昇率になっています。生活必需品であるガソリン、卵、ベビーミルクが、それぞれ別の理由も重なって暴騰する中で、中古自動車、不動産の高騰も顕著です。

有権者の間には怒りが渦巻いており、その怒りは現職大統領であるバイデンに向かっています。問題が物価高という具体的なテーマであるだけに、共和党は勢い付いています。バイデンは完全に守勢に回った格好です。

このタイミングで「中国包囲網」を強化するメリットは、バイデンにはありません。ここからは、1つの思考実験になるのですが、米中関係は大きな転換点を迎えつつあるという見方もできます。とりあえず、状況証拠としては以下のような指摘ができると思います。

* * *


1)原油価格を下げるには、ロシア・ウクライナ戦争の停戦が必要。現時点で仲介ができるのは中国。

2)アメリカの物価高の大きな原因は、中国との間の物流停滞。さらに上海ロックダウンによる生産遅延の影響も出始めている。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英、障害者向け自動車リース支援制度改革へ 補助金を

ビジネス

米経済下振れリスク後退は利上げ再開を意味、政策調整

ワールド

イスラエル、ヨルダン川西岸で新たな軍事作戦 過激派

ビジネス

S&P、ステーブルコインのテザーを格下げ 情報開示
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story