コラム

大阪ダブル選、自民と共産が共闘する理由は単純

2019年03月19日(火)16時00分

大阪はいまインバウンド景気にわいている bennymarty/iStock.

<自民、公明と共産が共闘して既得権益を守ろうという大坂ダブル選、しかし一方の維新の側も都構想の先の経済活性化策は不十分>

大阪府知事選と大阪市長選では、維新の会の吉村洋文市長が今度は府知事選挙に、松井一郎府知事が今度は市長選に出馬しました。このダブル選挙であらためて民意を問い、一度は否決された府と市の合併、つまり「都構想」の実現に勢いをつけようというものです。

これに対抗して、大阪の自民党と共産党が共闘することになりました。つまり、知事選では自民党の推す小西禎一候補(元大阪府職員、最後は副知事)、市長選挙では柳本顕候補(自民党のベテラン市議)が出馬して、松井・吉村コンビと対決するわけで、自民党と公明党のそれぞれの大阪府本部が推薦しています。

そこで共産党は18日、自民党の推薦する2人を「自主支援」すると発表しました。報道によれば共産党は「個々の政策課題の違いは置いて、異質の悪政に私たちは反対して、幅広い人たちと手を結んでいきたい」(柳利昭・共産党大阪府委員会委員長)と述べています。

一見すると、勝つためには何でもするという「マキャベリズム」にも見えますが、実はこの両者が共闘する理由は単純です。

自民も共産も「大きな政府論」

大阪府政、市政においては、大阪経済の地盤沈下が著しいにもかかわらず、大阪独自の「大きな政府論」が維持されてきました。これに対して、府政と市政の二重行政をあらためて、コストカットを行い「小さな政府にする」というのが維新の政策「都構想」でした。

一方で、自民党は大中小の企業の利権を代表し、共産党は組合や共産党系企業の利権を代表し、それぞれが「大きな政府論」の側に立っていたのです。ですから、維新の動きは共通の敵であることはもちろん、大阪府、大阪市のレベルでは政策としても似ており、維新を目の敵にして選挙協力するというのは、極めて合理的な判断と言えます。

それにしても、自民(プラス公明)と共産が組んで、既得権益を守る戦いを行うというのは、維新の改革が進むことで相当に追い詰められているからなのでしょうか? この点に関しては、少し違うようです。大阪は、アジアから関空にやってくるLCCによる空前のインバウンド景気にわいており、自民、公明、共産の支持母体であるサービス業、小売業などは活況です。

また、地方税収も上向きのようで、18日に発表された市の税収は前年比1.7%増となっています。ですから、窮状を打破するために「リストラに反旗」というのではなく、金があるのだから「リストラは不要、もっとカネを回せ」という主張だと理解できます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで14人負傷、ロシアの攻

ビジネス

アマゾン、第1四半期はクラウド部門売上高さえず 株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story